第29話 婚約破棄をされる(させる)転生者02

「婚約破棄、ですか?」

「うん、どうやらそうなるみたい」

 目の前で済まなそうにしている男性は困ったようにそう私に伝えてきた。

 ここは転生者が集まる酒場らしい。

 男性は酒場の店長で私の置かれている状況を説明してくれていた。

 なんでも、痴情のもつれに巻き込まれて私は死んでしまったらしいとのことだった。

 多分、近くで言い争っていた男女が原因なんだろうなーって思い出していたところ店長が伝えてきた話がさっきの言葉である。

「どういうことでしょうか?といいますか、そんなことがわかるんですか」

「君が転生する箱庭を管理している創造神が言ってるから間違い無いと思うよ」

 曰く、わたしたちのいう世界というのは創造神が管理する箱庭なのだそうだ。

 そして、創造神は箱庭内の因果みたいなものを見ることができるらしく、かなりの確率で私は一度婚約破棄をされるらしい。

「巻き込まれた痴情のもつれっていうのが、あちらの箱庭の問題でもあったから救済も兼ねてここにきてもらってるんだ」

 なんでも、管理をしている創造神の部下がミスを犯し、その結果巻き込まれたらしい。

 死んでしまったことは色々文句を言いたいところだが、色々と優遇してくれるみたいなのでまぁいいかと思う。

「お詫びも兼ねてての新しい人生なのに、そんなひどいやり直し人生はアリエナイデショ?そんなわけなので、婚約破棄に備えてこれらの技能スキルを身につけてもらうと思う」

 そう言うと、店長さんは一枚の紙を見せてきた。

 確認してみたけれど、なかなかに考えられた内容ではある。

「貴族社会からは距離を取りたいかなぁ」

「気持ちはわかるけれど、ある程度快適に生きようとすると後ろ盾があるほうが面倒が少なくて済む」

 そういって、いろいろと店長さんは相談に乗ってもらえた。

 前提として、この婚約破棄事件は回避できないらしい。

 というのも、その世界に転生するのが自分だけでなく、わたした転生する原因となったあの2人もいるから。

 それも、婚約者を寝取る予定なのが、喧嘩していた女らしいのだ。

「あっちも巻き込まれだからね。まぁ、完全なとばっちりである君ほど優遇はされないらしいけど」

 男の方は女に騙されただけで、まともだったそうだけど、女の方は真っ黒な性格をしているそうで、ここでもすでに色々とやらかしているんだとか。

「あぁ、彼女とはここで会うことはないから気にしなくていいよ。躾は女将がやってくれてるから少なくともここでは揉めないだろう」

 極悪だったら転生そのものを取りやめて輪廻に回すんだけど、その一線は越えないあたりタチが悪いなぁって店長さんが呟いてるのが聞こえる。

 転生の取りやめってできるんだ。

「できるができないかで言えばできるよ?理由があって転生してらもうわけでもないからね。でも、ここに来る人って基本的に創造神のうっかりで死んだ人とかだから、よほどひどくないと転生はしてもらうことになるんだよね、お詫び的に」

 一応、ここでやらかすと習得した技能スキルが没収されるなど罰則が発生するためバカをやる人は少ないらしい。

「いないことはないんだ?」

「僕たちには危害を加えられなくても、転生する子たちには危害が加えられるからね。以前、幼馴染を陥れてようとして破滅した子がいるしね。あぁ転生後にやる分にはこちらからなにもできないけれど、そちらの対策も予め取らせてるから実は無理なんだよね」

 転生者が起こす問題対策として作られたのがこの酒場だからと店長さんは苦笑いしている。

「他の転生者のこととかは一旦置いておいて、まずは君のことさ。転生後のわかっている問題を回避するための技能スキルの習得が必須になるから、そこをベースにやりたいことに必要な技能スキルを習得していく形だと無駄がないかな」

 そういうと、店長さんは転生先の情報と創造神様からいただいた婚約破棄の流れをもとに必要そうな技能スキルをリストアップしてくれる。

 そこに、自分が転生後にやりたいことを踏まえた追加の技能スキル構成を提案してくれる。

 貴族として転生するのはまぁいいとして、どういう技能スキルがあればいいのかがまったくわからなかったからすごく助かった。

 一通りの相談が終わったあと、久しぶりに頭を使ったためか疲れていたのだろう。

 宿で一服するつもりがその日はそのまま朝まで寝てしまっていた。


 次の日から酒場での生活が始まったけど、いこごちが良くてちょっと長居してしまうことになる。

 だって、ご飯が美味しいし娯楽もちゃんとあるからもうこのままでもいいかなって思うってしまうくらい快適だった。

 結局は転生したんだけど、期間は大幅に延長したんだよね。

 技能スキルも予定以上にとったので、当初よりも快適生活ができるようになったけど。

 なにはともあれ、このつまらない茶番をさっさと終わらせて、新しい人生を楽しみますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る