第30話 婚約破棄をされる(させる)転生者03

まぁ、そんなわけでこのふざけた茶番は私の中では想定内なのであり、当然根回しも対策も完了しているのである。

私とヨハン様の婚約が解消されていることを聞いたヨハン様は目を白黒させて混乱しているようだった。

この方は素直すぎるので良く騙されたりするところから誤解されがちではあるけれど、頭の回転自体はいいんだよね。

きっと、私が嫉妬に狂ったからというもっともらしい理由が動機だと思っていたんだろうけど、その前提が崩れてしまったことで自身の考えが破綻してしまったんだろう。

そして、アンジェリカの方は顔色が真っ白になっている。

私を悪女に仕立てたかったのだろうけれど、その前提である婚約が解消されていたという事実。

しかも、自分を嫌がらせをしていたという発言が嘘であったことが証明されてしまった。

そして、私が婚約解消に尽力したという事実から自分をいじめる理由がないことをこの場にいる全員に理解させられたのだ。

被害者としてハナを断罪するはずが、逆に断罪される側になってしまったこの状況、まずいどころの話じゃ済まないだろう。

「・・・まぁ、そういうことですので、あとはお二人でお話ししてくださいな。私には関係ありませんので。では皆様方、お騒がせいたしました」

 そういうと私は踵を返してその場を立ち去ることにした。

 後ろからなにか叫び声のようなものや私を呼び止める声が聞こえてきた気がするけれど、知ったことではない。

 振り返ることなく会場を出た私は手配しておいた馬車に乗り込む。

 家にはもどらず、予約している高級宿の方に移動して一泊の予定だ。

 ヨハン様に押しかけられてもこまるので、両親と相談した結果である。

 明日にはこっそりと街を出て領都に戻る計画になっている。

 後始末については両親がやってくれるように頼んである。

 布団に入った私はようやく解放された安心感から少し寝坊することになるんだけど、これくらいは許されるよね。


その後について簡単に書いておこうと思う。

ヨハン様は勘当こそされなかったものの再教育の一環として実家の開拓地へと送られた。

結構厳しい土地らしいのだが、最低限の支援はされているので死ぬことはないだろう。

本人も騙されたとはいえ色々とやらかしていたことを反省しているため、真面目に働いているらしい。

この方は本当に騙されやすいところとちょっと視野が狭いことを除けば基本いい人なんですよね、勿体無い。

まぁ、反省してやり直してほしいとは思う、私はもう関わりたくないけれど。

アンジェリカの方は修道院に送られた。

それも監獄のような島にある修道院で、ここに送られた人は二度と外には出られないと言われている。

なんでそんなところに飛ばされたのかと思ったら、どうもこの悪女は他にも色々とやっていたらしい。

薬とか殺人とか凶悪な犯罪こそはしていなかったものの、それなりの数の貴族の令息がその毒牙にかかっていたらしい。

このままだと傾国の美女になりかねないと上は判断したらしく、絶対に俗世に戻れないところに追放することにしたんだとか。

もういっそ処分した方が精神的に楽だと思ったけど、国の法律上そこまではやってないので処分できなかったらしい。

彼女の処分については意見自体はあったけれど、法の遵守を王様が徹底するようにと諌めたんだとか。

この王様がいる限り、この国は安泰だね。


「お嬢様、そろそろよろしいのではないでしょうか?」

「うん? ・・・うん、いい感じに抽出できたかな。火を止めて冷ましてちょうだい」

「承知しました」

手伝いのメイドの声に応えて意識を目の前に向ける。

薬品の反応を確認すると指示を出して次の準備をする。

私はというと、ひたすら化粧水を調合している。

というのも、販売開始とともに大人気で品薄になっている。

一応、量産体制は整えたつもりだったんだけどなぁ。

「王妃様もお父様も手伝ってくれてるし、近いうちに私の手を離れるかな」

化粧水の件が落ち着いたら、ようやくやりたいことができるわ。

ここまでが地味に長かったけど、無事に乗り越えたられたし、お祝いに旅行にでも行こうかしら?

店長さん、お世話になりましたが元気にやってますよ〜。

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