第27話 逃げ出す転生者04
「ふぅ、これでゆっくりできる」
シルビアを見送りながら俺はため息をつく。
彼女には俺がこちらにきた頃からよくしてもらっている。
この国の王女として、俺を手元に置いておきたいのだと思うんだけど、俺はできる限り関わりにはなりたくないんだよね。
実際、追放されるまでは貴族とのやりとりが面倒くさくて仕方なかった。
足の引っ張り合いは日常茶飯事、おまけに面子を重んじるせいでちょっとしたことでも根回しをしておかないと面倒になるし。
冒険者になった今も貴族が絡む場合は本当にやりとりが面倒くさかった。
「さっさとお役目を終えて隠居したい」
年寄りくさいと仲間には言われるが、現代社会に生まれて育った俺にとって貴族社会は面倒くさいし、今の冒険者家業も実はちょっとつらいと感じている。
役目を終えた後は酒場で身につけた錬金術を中心としたものづくりをしながらのんびり過ごしたいと思っている。
素材集めがするつもりなので冒険者家業を完全に引退することはないだろうけど、今のように活発に討伐依頼を受けたりはしないつもりだ。
「移動工房をできるだけ早く製作しないと」
シルビアは工房を用意するといっていたが、それを拠点にする気はない。
魔境とも言われる大森林のそばだといっていたので、利用はさせてもらうがべったりだとこの国から逃げられなくなる。
とりあえず、逃亡先をいくつか準備しているけれど、果たして逃げ消えるのやら。
早く自由になりたいわ〜。
「今のところはうまく逃げられているようだね」
「そうですね。しかし、本当の意味で逃げ出すのはこれからですが」
「今のところ彼女の態度は普通だから気づかないでしょう」
タケル君の様子を見ながら女将の言葉にそう答える。
実は転生したタケル君には不確定であったことから伝えていないことがある。
それは彼が逃げ出すのは貴族社会からではないのだ。
「まさか、姫様を筆頭に一部のヤンデレから逃げないといけないとは思わないでしょうね」
そう、彼が逃げなければいけないのは彼に好意を寄せる女性からなのである。
だが、誰も彼もがヤンデレというわけではないし、ヤンデレになるという保証もなかったため、注意のしようがなかったのだ。
というか、今の所ヤンデレの気配が出ているのは姫様くらいである。
気配が出ているといっても、まだ普通ではあるのだが。
「毒でないものが毒になるとは言えませんからね」
「一応、注意するようにはいっておいたし、事前に察知したりできるようには訓練させたから大丈夫だと思うけど」
ヤンデレって優秀な女の人がなると正直手に負えないからなぁ。
「まぁ、頑張ってもらうしかないね。一応、役目が終わったら縁切りで逃げ切れると思うけど」
「本当に逃げ切れると思いますか?」
「・・・・・・」
が、頑張れ、タケル君!
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