第26話 逃げ出す転生者03
「以上が、お父様からの伝言です」
「ありがとう、シルビア。陛下に感謝の気持ちは確かに受け取ったと伝えてほしい」
「承知しました…それと、今回の報酬なのですが、本当にそれでよろしいのですか?」
「あぁ。ギルドからの報酬や領主からの礼金を少なからず受け取っているからな。陛下には引き続き後ろ盾になってもらうだけでいいさ」
被害のあった町の慰問と支援物資の輸送という建前のもと、陛下からの手紙を持ってきたシルビアは困ったような顔をする。
「被害に遭った地域の復興支援など、本来は国やその地域の領主が行うことで、個人がすることではないのですよ」
「わかっているけれど、今まででも随分と報酬を受け取っているんだ。これ以上もらっても使い道がないよ」
「そんなことをあなたが言い出すとお父様達の面子が潰れますのに……しかたありません、報酬については別途こちらで用意いたします。たしか、錬金術?でしたか、それで使用する素材や工房が欲しいとおっしゃっていましたね。専用の工房を用意いたしましょう」
「いや、自分で用意するから…」
「目に見える形であなたに報酬を用意する必要があるのです。大丈夫です、ちょうど私の管理する保養地がありますのでそちらに用意しておきます。かの大深林のそばですので素材採集の拠点にも使えるでしょう。素材についても、何かあった時の備えとして集めていると言えば特に反対はされないでしょう。素材の管理のため定期的に古くなった素材を市場に流すなどしておけば無駄にもならないでしょうし」
「あ、それなら時間経過なしの保管箱を用意するよ、この間ようやく保管用の魔道具が作れるようになったんだ」
「…また、国宝級のとんでもないものを…作成に必要な素材を教えてください、至急用意させます」
「いや、持ってるから大丈夫だよ?」
「お、し、え、て、く、だ、さ、い!あとで素材の費用をギルドの口座に入れておきますので」
「お、おぅ」
すごい剣幕で怒ったようにシルビアは言ってくる。
「でも、いい値段するんだけど大丈夫?予算に余裕があんまりないって前に言ってなかった?」
「時間経過なしなんてとんでもない性能をしているのですからそれは当然でしょうね。大丈夫ですわ、ちょうど勇者の予算を減らすことになりましたのでそちらから出せばいいのです」
「あ、ようやく減額するんだ?」
「えぇ、あなたに言われてからコツコツと積み上げてきた根回しがここで生きてきましたから」
以前から勇者に割り振る予算を減らすべきだという意見があった。
今の勇者は性格が悪い上、成果も出ていない状態にも関わらず、予算をかなり多めに振り分けていた。
自分が所属していた頃は尻拭いをしていた関係で成果がまだあったが、今は散々のようだ。
しかし、勇者に取り入って美味しい思いをしていた貴族たちの反対が大きく、なかなか予算を減らすことができなかった。
シルビアからその愚痴を聞かされた時に、根回しと勇者に問題があることや成果が出ていないということを目に見える形で示すようにと助言してみたのだ。
「問題は勇者の代わりをどうするか、ですわね」
「俺はやらないからな」
こちらをじっと見てくるシルビアから目を逸らしつつ俺は答える。
勇者になったら碌なことにならないことはわかっている。
勇者にならないためにあいつに勇者を押し付けたんだし。
「それについては半ば諦めています。完全ではありませんが」
そこはすっぱりと諦めて欲しい。
「とりあえず、今後について、話し合いましょう」
そういうと、シルビアは今後の動きについて話はじめた。
俺の老後のためにも勇者にはもう少し頑張ってもらわないとな。
「な、補充の騎士が来ないとはどういうことだ!」
「言葉のままです。現段階でも予備役の兵を出しており、これ以上の戦力は準備できないとのことです」
王都からやってきた使者の言葉に俺は耳を疑った。
「幸い、魔獣の方は冒険者達によって討伐されましたので問題はないだろうとのことです」
「っ!」
「また、負傷した騎士たちはこのままで戦えないため、いったん引き上げさせるとのことです。勇者様には、騎士達が復帰するまでの間、こちらの討伐任務をお願いしますとのことです」
そういうと、王から書状が手渡された。
そこには、いくつかの討伐任務の情報と、支給される予算について書かれていた。
「おい、支給される予算が減額されているのはどういうことだ!」
「どういうことだと言われましても、騎士団が引き上げる以上、人数が大幅に減りますから。それに、このところ勇者様はあまり成果をあげられておりません。王からは『勇者に予算を出すのはその働きに対しての対価である。成果が出ないのであれば予算を出すことはできない。予算が欲しければ、成果を上げるのだ』と伝言を承っております」
そういうと、使者は退出して行った。
どうしてこうなった。
俺は勇者だぞ、今回討伐し損なったのは追従する騎士達が役立たなかったからで俺が失敗したわけではない。
それなのに予算を削られるなんて。
「くそ、なんとしても成果を上げなければ…」
王からの手紙を見ながら、どうすればいいか考えるが妙案は浮かばなかった。
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