第25話 逃げ出す転生者02

「というわけで、君は異世界に召喚することになった」

「いや、その話だと転生ですよね?」

 気がつくと、俺はこの酒場の前に立っていた。

 混乱していると、店員さんが俺を酒場の中に入るようにいってきた。

 ここがどこなのかを確認した方がいいかと中に入ると、店長さんが俺の状況について教えてくれた。

 どうやら、不意の事故に巻き込まれて瀕死になったところを異世界の創造神によって召喚されたらしい。

「いや、厳密には君は死んでいないから転生ではなく召喚になる」

「でも、俺瀕死だったんですよね?どうやって助かるんです?」

「その辺は転生先の神様がやってくれたよ」

「なんというご都合主義」

「まぁ、お願いしないといけない立場だから、今回は」

 そういうと事情を説明してくれた。

 今回の召喚はその世界の勇者に問題があったため、その対処のために自分が召喚されることになったとのことだった。

 ただ、その対処方法に問題があった。

「ぇー、なんで俺がそんなクズの代わりをしないといけないんですか?」

 いわく、今の勇者が使い物にならないため、代わりの勇者になって欲しいというものだった。

「そいつが築いたクソみたいな評判の跡を継いでどうにかするとか罰ゲームでしょ」

「だから君はここにきたんだ」

 店長さんの話によると、自分が管理する箱庭を救ってもらおうと思って召喚したものにそんな不幸を押し付けることはできない。

 役目を終えた後は望む生活ができるように必要な能力を身につけさせようということでこの酒場におくりこまれたらしい。

 この酒場では好きな能力を訓練によって身につけることができるそうだ。

 転生時にも必要な力は与えることはできるが、うまく使わなければ逆に面倒を起こす可能性があるため、力の使い方を学べるようにと配慮らしい。

 まずは方針を決めるということでやりたいことや避けたいことを店長に相談することにした。

 勇者の代わりをするのはいいが、勇者にはなりたくない。

 なので、今の勇者を隠れ蓑にし、問題解決は俺が行うという形で逃げる算段をつけることにした。

「まずはこのスキルから身につけようか。比較的簡単に習得できるけど、練度を上げるのに時間がかるから先にとって、他のスキルの習得を進めながら上げると効率がいい」

「このスキルを取るのならこちらのスキルも合わせて取るのがおすすめだよ、応用が聞くようになるからね」

「そのスキルは、デメリットが意外に多いので修得はお勧めしない。取るのであれば、デメリットを補う別スキルを取るか、立ち回りを考える必要があるね」

 さすがこんな酒場の店長をしているだけあって、適切なアドバイスだった。

 この相談をもとに俺はスキルを身につけていくことになった。

 やりたいことを詰め込んだらそれなりに習得期間がかかったが、この酒場では時間経過がないそうなので、慌てず丁寧に過ごしてきた。

 すごく居心地が良くて、ずっとここで過ごしていたかったが、転生先の問題があるのでそうもいかず、後ろ髪をひかれながら俺は転生した。

 そうして、勇者とパーティーを組むことになったのが、この勇者が本当に使えないやつで苦労した。

 勇者としての適性があるってだけで能力を鍛えてるわけじゃないから基本ゴリ押ししかできない。

 何度か注意したりもしてみたが、反発するだけで改善しなかったので、上手く誘導して多少の矯正を試みてみたが、それほど効果はなかった。

 散々手を尽くした結果、習得していなかったスキルが新たに生えたので無駄ではなかったようだけど。

 追い出される時は、勇者に関わったことがある騎士たちや姫であるシルビアにかなり引き留められたけれど、結局は勇者を支援する貴族たちに押し切られるように俺は追い出された。

 しばらくして、勇者が魔獣の討伐に失敗したとシルビアから連絡があり、代わりの討伐を依頼されることになる。

 そういったこと繰り返されるうちに、陛下や勇者を支援していた貴族たちもまずい状況になりつつあることに気付いたのだろう。

 勇者の尻拭いを定期で頼まれるようになってきた。

 シルビアや騎士団の上層部など現場の声もあり、おいだされたといってもそこまで関係は悪くなかった。

 このため、依頼にはそれなりの報酬が支払われている。

 まぁそうでなかったらそもそも引き受けてていないわけだが。

 はぁ、早く自由に行きたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る