逃げ出す転生者

第24話 逃げ出す転生者01

「なに!?勇者アークがまた敗れただと!」

 もう何度目であろう勇者の敗走にワシは頭を抱えた。

 そんなワシの横に控える娘が疲れ果て傷ついた伝令兵に声をかける。

「それで、町はどうなりましたか」

「幸い、優秀ながいたこともあり、町には被害が出ておりません。しかし、勇者殿の敗走に伴い、従軍していた部隊に甚大な被害が発生しております」

 町に被害が出ていないという報告に胸を撫で下ろすものの、兵の被害が大きいことに再び頭を抱える。

「勇者殿からは『使えなくなった部隊の代わりを送って欲しい』と言われておりますが…」

「それはできません。あの部隊は我が国の各部隊より選りすぐった精鋭部隊です。代わりになる部隊はなど存在しません」

「そもそも、これまでの功績を考えればあの程度の魔物の群れに遅れを取ること自体おかしい。一体何がどうなっている」

「…勇者殿の調子がおかしくなり始めたのは、彼がいなくなってからです。お父様、まだ彼のこと、タケルを認めることができませんか?」

「………」

 娘の言葉にわしはなにもいうことができなかった。

 かつて、勇者を支えていた1人の男がいた。

 そのものは目立った功績はなかったが、裏方として有用な男であった。

 しかし、勇者はなにが気に食わなかったのか彼を役立たずと断じ、目立った功績もなかったことから勇者の意見に賛同した貴族たちの意向もあり、ワシは彼を解任してしまった。

 裏方であったことから彼の代わりはほかにもいるだろうと軽く考えていたこともあるが、勇者が機嫌よく働くのであればと考えてのことだった。

 娘は最後まで反対していたのだが…

「お待ちください、姫様。かの者は勇者殿が役に立たないからと追放した者です」

「その勇者殿の判断が間違っていたのではないかといっているのです」

「しかし、彼が役に立っていたという証拠もありません」

「では、タケルが役に立っていなかったという証拠をまず出しなさい。私はタケルが勇者の陰でどれだけの成果を上げてきたかを説明してきました、しかし、あなた方は彼の代わりはいくらでもいると言いました。それで、タケルほどの働きができた者はいたのですか?」

「それは…」

「言葉で言うだけならば子供にでも言えます。しかし、勇者の役目は結果が伴わなければなりません。タケルのことを非難するのであれば、タケルと同等の仕事ができるものがいるのであれば、直ちに勇者殿のところに送り、仕事をさせなさい。口ではなく、行動と結果で己の言葉を証明しなさい」

 娘の言葉に彼の解任に賛同していた貴族たちは、みな口を閉じてしまう。

「伝令よ、役目ご苦労であった。返答は別のものに任せるゆえ、下がって休むが良い。一旦休憩とする。休憩後は今後の対策について相談しよう」


「騎士団長、部隊の方はどうだ?」

「姫様の言うとおり、これ以上の人員は派遣しかねます。すでに勇者殿に従軍させるために予備役の兵を使って各部隊の不足を補っている状況ですので…」

「まぁそうよな」

「申し訳ありません。あの時、姫様の言葉をもっと重く受け止めていればこんなことには…」

「しかたあるまい。ワシとてここまでの影響が出るとは思っておらなんだ」

「いえ、共に仕事をしていた部下達からも反対の意見はあったにも関わらず、説得できるだけの材料を用意しませんでした。王は皆の意見を聞いて総合的に判断されただけです」

「それでも責任を取らねばならんのだ」

「陛下、騎士団長殿。それくらいになさってください。今は誰の責任などといってる場合ではありません」

 自分に責任がと言い合っていると宰相がそれを止めてくる。

 確かに、今責任云々と言っている場合ではないな。

「シルビアよ、タケルは今どこにおるのだ?」

「タケル様は勇者の尻拭いをしたあと、町の復興を手伝っているそうです。今の所、他の場所で問題が起こっているという報告はありませんので」

「姫様の進言通り、タケル殿に対して誠意ある対応をしていて正解でしたな。おかげで最悪の事態だけは避けられています」

「ふむ…問題は勇者をどうするか、じゃな」

「タケル殿が勇者になってくれるのであれば、万事解決なのですが」

「そんなことをすればタケルは姿を消してしまいます。タケルは目立ちたくないから勇者を隠れ蓑にしていたのですから」

「欲がないもなければ悪意ものない。ワシらにとって都合のいいはずの存在がここまで扱いにくいとは思わなかったわい」

「タケル曰く『欲がないんじゃなくて、貴族達がよくだと思っているものを持っていないだけ。俺は強欲だよ』だそうです」

「実際、報酬自体はしっかり請求しております。そんなものが報酬になるのかと思うものばかりでしたが」

「私たちとは価値観が根本的に違うのです。そのことを理解して接すれば下手の貴族などよりもよっぽど信用できます」

「であればタケルとはこれまで通り友好を結ぶとして、アークを勇者から解任する方向で調整するか」

「このところ失敗続きで、市井でも評判が良くありませんからな」

「あれで性格が良ければまだ救いようもあったのですがねぇ」

「あそこまでひどいと勇者派の貴族たちもこれ以上は庇えないでしょう」

「ただ、このまま解任となるとアーク達も納得しないでしょう」

「であれば、最後のチャンスとして任務を与えてはどうでしょうか。ちょうど、彼らの能力相応の任務があります。騎士団から兵を派遣して対応する予定でしたが、勇者にやらせましょう。失敗すれば能力がないと勇者を解任できますし、達成できた場合も部隊の再編に手間取っているといって、引き続き同様の任務に派遣すればよろしいかと。彼の修行にもなりますし、兵を派遣しない分予算も少なくて済みます」

「なるほど。陛下、ついでですので勇者にかける予算の減額を行いましょう。兵が減る分だと言えば文句も言えないでしょう」

「許可する。代わりにタケルの方に回せ。シルビアよ、タケルに連絡して何か欲しいものややって欲しいことがないか聞いておいてくれ。それと街を守ってくれてありがとうと礼を伝えてほしい」

「わかりました、お父様」


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お久しぶりです。

ようやく仕事が落ちつてきましたのでまた更新を開始します。

いつも思いますが、仕事をしながらでも更新できる人は本当にすごいですね。

自分も見習わないと(汗

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