酒場の日常

第17話 ある日の酒場(ハッサン視点)

「六花、すまんがビールを頼む、ノンアルコールじゃないやつじゃ」

「昼間から飲むなんて珍しいですね、ハッサンさん」

「頼まれた仕事を徹夜で終わらせてな、今日はこのあと寝るだけなんじゃ」

「お疲れ様です、すぐに用意しますね」

 そういうと、六花はカウンターに注文を通す。

 わしの名はハッサン。

 見た目はドワーフの鍛治の神をやっとる。

 この転生酒場では戦鎚で戦う鍛治師ということになっているが、酒場の裏を知っておるもの以外にはドワーフということにしている。

「というか、ドワーフのくせにノンアルコールが基本とかいまだに信じられんわ」

「ドワーフだからといっていつも飲んどるわけじゃないわい」

 そんなことをしたら仕事に支障が出るじゃろうが。

 わしと一緒に飲んでおるこの男はドレイク。

 店長が箱庭からスカウトしてきた元海賊で今は船乗りのスキルを転生者に教える講師をしておる。

「わしからすれば酒を飲みながら船を操っとるおぬしの方が信じられんわ」

「かかか、船乗りが酔って船を動かせんようでは生きていけんわ」

「おまたせしました、ビールです」

 六花がジョッキに入ったビールを持ってきた。

「ハッサンさん、女将からの伝言です。『作ったものは後で確認しますのでそれまで依頼人に渡さないように』とのことです。」

「ぬ?」

「この間すごいものを作っちゃって問題になったから確認しておきたいんじゃないですか?」

「あぁ、そんなこともあったな」

 六花の話を聞いて、ドレイクが納得する。

 少し前に転生者の1人に頼まれて武器を作ったのじゃが、性能が良すぎて問題になったことがあった。

 別に過度に優遇したりしたわけではなく、予算に合わせたものを用意したのじゃが、その転生者には扱えない性能になってしまった。

 加えて、転生者の実力を考えるとそんな武器を持っていること自体が不自然であり、いらないトラブルを引き寄せかねないということで問題になった。

「対価としての予算はもらっておったからのぅ」

「だとしても、一軍を薙ぎはらえるような威力はやりすぎだろうよ」

 店長や女将にも似たようなことを注意された。

『予算いっぱい使うんじゃなくて、予算の範囲でちょうどいいものを作るようにしてほしい。持ってるだけでトラブルを呼ぶようなものは依頼主にも良くないだろう』

『職人としてより良いものをという考えは理解しますが、この性能だと使い所が難しすぎて逆に使えませんよ』

 店長たちの言っていることは理解できる。

 わしに依頼してくるものたちはいつも熟練の戦士たちじゃった。

 ゆえに作ったものを十全に使えるだけの経験と腕があったが、この酒場に集っておる転生者たちはこれから成長する雛鳥ばかり。

 良すぎる武器なぞ与えても使えないと言うことに気づいておらなんだわしが未熟だったのだろう。

「了解した、なれば、急ぎとってくるとしよう」

「そんなに急がなくても大丈夫ですよ?」

「いや、気持ちよく酒を飲むためにも先に片付けておこう。ダメ出しを喰らったら作り直しじゃからな」

「でも、このビールはどうするんです?」

「俺が飲んでおくさ。勘定はこっちにまわしてくれ」

「すまんな」

「気にするな」

 そういうと、わしは鍛冶場にものを取りに戻った。

 作った武器は多少性能が良かったもののなんとか及第点に収まっていたことを追記しておく。

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