第14話 旅立てない転生者
「うーん、うまくいかないなぁ」
目の前にいる精霊を見ながら、私は頭をかしげる。
酒場に来てから数ヶ月、転生先の座学を終え使えそうな技能を周りの人たちに相談しながら習得していたのだけれど、どうしても精霊との契約がうまくいかなかった。
召喚に応じてはくれるし、力も貸してくれるのだが、いざ契約となるとうまくいかないのだ。
精霊以外については、神狼フェンリルの子供(名前はシロ)と契約ができたのだけれど、今はまだ弱いため護衛役してはまだ不安が残るのだ。
「これだけ精霊に好かれているのに、一柱も契約してくれないというのは変な話だよ。子供とは言え、フェンリルと契約できるほどの器なら強い精霊であっても契約はできるはずなのに・・・何か理由がありそうだね」
講師役は首をかしげながらも原因を探していこうといってくれたけど問題は。
「精霊と契約できないと転生できないんだよね」
身を守るために精霊との契約をしようとしているのに肝心の精霊と契約できないのだ。
身を守れない状況では安易に転生できないし。
「店長さんに相談してみようかしら」
運動音痴だから避けたかったが、体を使う系の技能を身につけないとやっていけない気がする。
「このままだとシロがある程度戦えるようになるまでは転生できそうにないなぁ」
いつになったら転生できるんだろ?
「どういうつもりですか?」
「・・・ふんっ」
紬さんが精霊と契約できない原因を調べていたところ、そもそもの原因と思われる存在がいることに気づきました。
紬さんが箱庭から飛び出したのは確かに召喚の儀が原因でしたが、そのせいで彼女を引き寄せていた存在に気づかなかったのはこちらの調査不足でした。
「あなたがさっさと転生させないのが悪いんじゃない」
「身を守る術も与えずに転生させるわけにはいかないでしょう。そもそも、あなたと契約するにしても今の状態では契約できないでしょうに」
「それは・・・」
彼女を引き寄せていた存在、それは転生先の精霊王でした。
創造神以外では箱庭で最も力が強い存在の一柱で今の紬さんでも契約はまだ早いと言わざるおえない存在です。
「契約するためには戦って強くなるしかありません。それなのに戦う力を与えないなんて馬鹿なのかな、君は」
「うぅ・・・」
なんてことはない、他の精霊にうつつ抜かして欲しくないというわがままが原因なのだ。
強い力を持つ精霊王は違う箱庭に生きる紬さんをたまたま目にする機会があり、その存在を気に入ってしまった。
しかし、違う箱庭に生きる彼女に手を出すことはできないため諦めていたのだが、偶然召喚の儀で彼女の住む箱庭と繋がったことで思わず彼女を引き寄せてしまったのだ。
しかし、そのことを箱庭を管理する創造神が見逃さず、彼女をここに送り込んだことで、接触することはなかった。
それどころか罰としてしばらくの間は接触できないように言い渡されてしまったのだ。
精霊王もさすがに自身がやったことの重大さを理解しているのでおとなしく罰を受け入れたわけだが、それでもその間に別の精霊と仲良くするのは面白くなかった。
そこで、配下の精霊たちに手助けをするように、ただし契約は認めないという理不尽な通知を出していたのだ。
「とにかく、つまらない干渉はやめること。もし、これ以上干渉するようであれば彼女の人生が終わるまであなたを封印すると箱庭を管理する創造神から伝言を預かっています」
「な!?それでは我は彼女に会えないではないか!」
「自業自得ではないですか。どのみち、今の状態ではあなたと契約なんていつまでたってもできませんしね・・・どうしますか?」
「わかった、みなには契約していいと通達を出す」
「最初から余計なことをしなければもっと早く会えたのです。これに懲りたら余計なことをしないでおとなしく待っていてください」
やれやれ、これは先が思いやられますね。
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