呼ばれた転生者

第13話 戻れない転生者

「はぁ・・・つまりあたしは死んでしまったと?」

「うん、厳密には死んだわけではないんだけれど、結果だけを見ればそうなるね」

 私、立華 たちばな つむぎはどうやら死んでしまったらしい。

 確か、学校の帰りに公園に寄ったところまでは覚えている。

 たしか、急に足下がなくなって、落ちていく感覚があったのは覚えている。

 けど、その後のことはまったく覚えていない。

 気がついたら、この酒場の前で倒れていたらしい

「とりあえず、なんで死んでしまったのかを教えてもらっても?」

 いきなり死んだと言われてもまったく覚えがない。

 まぁ、即死とかだと意識がないからわからないんだろうけど気にはなる。

「えっと、報告だとある箱庭で行われた召喚の儀が原因で生じた異なる箱庭へと繋がる穴に偶然落ちてしまったようだね」

「召喚の儀?」

「君の世界にラノべというものがあるよね? ああいうのによくある異世界から勇者を召喚するための魔法だね。魔法を発動した結果、その余波でできてしまった歪みのようなものに運悪く君ははまってしまったんだよ」

「それって戻せないんですか?」

「戻せないことはなかったんだけど、そうすると箱庭が壊れそうなんだよ」

 召喚する際に箱庭の壁に穴を開けてつなげるため、一時的に箱庭の状態が不安定になるらしい。

 召喚の儀が行われてから時間がたつと落ち着くのだそうだが、召喚された直後にあたしを戻すためにまた穴を開けると、さらに不安定になるので戻せないという話だった。

「こちらの都合で申し訳ないけれど、別の箱庭で新しい人生を送って欲しい。代わりに可能な範囲で自衛の手段を用意しようと思う。まぁ、自分で手に入れてもらうんだけど」

「ありがとうございます・・・って自分で手に入れる?」

「これからその説明をさせてもらうよ」

 目の前にいる男の人-酒場の店長さんらしい-は酒場のことをいろいろと教えてくれた。

 この酒場はあたしのように普通とは違う理由で転生することがなった人たちが転生先で迷惑をかけないようにするために転生先のことや自身が身につけた技能の使い方などを学ぶための研修施設らしい。

 あたし以外にも転生者がいるそうで、転生先は違うが研修では一緒になることもあるそうだ。

 なお、あたしの転生先はラノベでは定番の魔法と剣の世界らしい。

 魔王とかはいないので比較的に穏やかな世界ではあるが、それでも国同士の戦争はあるし、野生の動物(魔獣なんかもいるらしい)は十分に危険なので、自衛の手段を身につけるべきだと教えられた。

「自衛の手段かぁ、運動神経はそこまでよくないんだよね」

「だったら、自身の戦闘能力は必要最低限に抑えて、従魔を従えられるテイマーや精霊の力を借りられる精霊使いといった種類の技能を手に入れたらどうだい?動物が苦手だったりしないのなら使えると思うよ。特に、精霊は、契約できれば彼らの力で魔法と同等以上の力が出せるし」

「なるほど」

「ただし、これらは他人の力を借りる能力だから、契約した相手とうまくやっていく必要があるけれどね」

 自身の能力ではないので、契約相手と不仲になったりすると力を貸してくれなかったりするらしい。

 当たり前と言えば当たり前だが、時々それを理解せずに虐げたりすると、せっかくの能力が生かせず苦労するらしい。

「とりあえず、習得する技能は転生先の箱庭のことを座学で知ってからでも遅くないからあわてて今決めなくてもいい」

「わかりました」

「それじゃ、続きを説明しようか」

 途中、休憩を挟みつつお世話になる人の紹介などをされた後、ここにいる間に使う部屋に案内された。

 今日からしばらくはここはあたしの部屋だ。

「そういえば、あのとき聞こえた声はなんだったのだろうか」

 穴に落ちる直前、あたしは気がした。

 しかし、店長さんはと言っていた。

「店長さんが嘘を言っている雰囲気はなかったけど・・・気のせいだったのかな?」

 とりあえず、怒濤の展開で疲れたので今日はもう休もう。

 そう結論づけると、宿泊施設を管理する女将に教えられた露天風呂に向かうことにした。

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