第11話 そして二人は出会う

「・・・はい、確かに依頼の品はそろっています。報酬はどうされますか?」

「半分をギルドカードに、残り半分は受け取る」

「承知しました」

「あれ? ミナトじゃん。なに、納品依頼?」

 報酬の受け取りをやっていると、知り合いに声をかけられた。

「なんだ、アンリか」

「なんだとは失礼な! いつも一人で寂しそうなミナトを気遣ってあげたのに」

「誰も頼んでねーよ。てか、誰が一人で寂しいだ!普段ソロだから一人なんであって、人とつるんでないわけじゃない」

「でも、臨時パーティーしか組まないじゃん。結構優秀だからみんな誘ってるのに」

「前にも言ったが、俺は親友と合流するまでは他の人間とは組まないってだけだ」

 俺はミナト、異世界からの転生者だ。

 元の世界では親友をかばって一緒に死んでしまったが、いろいろあってこの世界に転生してきた。 

 転生時にいろいろと技能や特典チート(というほど出ないけれど)を手に入れたおかげで、この世界ではそれなりに有能な冒険者をやっている。

 俺にからんでいるこいつはアンリ、こっちに来てから知り合った冒険者だ。

 冒険者ギルドに登録したばかりの新人時代に、同じく登録したいわゆる同期というやつだ。

 普段は幼馴染みたちで組んだパーティーで活動しているが、時々俺を臨時パーティーに誘ってくる。

 こいつのパーティーメンバーとは仲良くしているのだが、いかんせん俺は彼らからするとよそ者だ。

 それに、がこっちに来たときに、下手にパーティーを組んでいると迷惑をかける可能性がある。

 そうでなくても、相性が悪くていあいつが気を遣ったりするといろいろと面倒なので、あいつと合流するまではパーティーをあまり組まないようにしていた。

「・・・男の人なんだよね、その親友って」

「前にもそう言ったはずだが?」

 アンリはことあるごとに親友のことを聞いてくる。

 なにがそんなに気になるんだか。

「ミナトってもしかして男の人が好き・・・いったぁ!ミナトが殴ったー」

「ふざけたことを言うからだ」

 こいつ、言うに事に欠いてなんてことを言いやがる。

「何度も言わせるな。俺にそういう趣味はない」

「でも、ミナトってモテるのに女っ気がないじゃない」

 放浪癖がある俺にとって、冒険者というのは天職だと思ってる。

 いつ死ぬかわからないという点では危険な職業だが、自由にどこかに行けるという点が捨てがたい。

 そもそもこの世界では、旅行をするのも命がけだ。

 それに、費用もだって馬鹿にならない。

 そう考えたら冒険者というのは俺の性に合っているのだが、所帯を持つとなるとそう言うわけにはいかなくなる。

 子供のこと考えれば安定した環境が必要だ。

 そう考えると、安易に恋人なんて作ろうとは思えなかった。

 まぁ、同業者やある程度自由にしても文句を言わない女性ならまだいいかもしれないが、言い寄ってくるやつは俺の稼ぎしか見てない気がするんだよな。

「モテることと好みの女がいるかは別だからな。ま、とにかくもうしばらくはソロだよ」

「うちはいつでも入ってくれていいからね」

 そう言うと、アンリは離れていった。

「・・・そろそろあいつが来るはずだけど、大丈夫かな」


「・・・ここが異世界」

 酒場での研修を終えて転生した俺の目の前には見たことがない光景が広がっていた。

 目の前には草原とその向こうにそびえある山脈、そして街らしきものが見えた。

 目立たないように道の側にある林の中に転送されたらしく、少し歩くと街に続く道が見えてきた。

「後はこのまま進めば街に着くはず」

 湊が転生する際、店長たちからは転生した後の行動についてあらかじめ決めておくようにと言われていた。

 湊が相談していた通りに動いていているなら、最初の街で彼の居場所がある程度は特定できるはずだ。

 段取りを思い出しつつ、一応周りを警戒しながら街まで歩く。

 入り口で警備をしている衛兵に軽く質問されたが、特にもめることもなく中に入れた。

「えっと、冒険者ギルドはどっちだろ?」

「君、迷子?」

「ん?」

 道を確認していると、声をかけられた。

 振り返ると冒険者らしき格好をした女の子がたっていた。

 見たところ、同じ年くらいだろうか?

「どこか行きたいの?」

「え、あぁ冒険者ギルドに行きたいんだ」

「それならあたしも今から行くからついてくるといいよ」

「本当?それは助かるよ」

 彼女についてしばらく歩くと、衛兵に教えられた看板が出ている建物にたどり着いた。

「ここだよ」

「あぁ、助かった」

「なに、ついでだからね」

「すまない、せっかくだから教えて欲しいのだが、冒険者登録をするには度の受付でもいいのかい?」

「え?君、冒険者じゃないの?」

「あぁ、村から出てきたばかりでね。これから登録するんだ」

「身のこなしが普通じゃなかったから、てっきり別の街からきた冒険者かと思っていたよ」

「まぁ、それなりに訓練はしてきたからね。ただ、代わりに実践経験が少し足りてないんだ」

「なるほど。登録をするなら入って左端の受付だよ」

「そうか、ありがとう」

「しばらくはこの街にいるんでしょ?あたしはアンリ、なにかの時はよろしく」

「こっちこそ、よろしく」

 そう言うと、彼女は酒場の方に向かっていった。

 さて、さっさと登録して宿を探しに行かないと。

 言われたとおり左の受付に行くとすぐに順番が回ってきた。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご用はなんでしょうか?」

「冒険者登録を行いたい」

「承知しました。こちらに必要事項をご記入ください。代筆は必要ですか?」

「いや、問題ない」

「承知しました。・・・技能の欄は空欄でも結構です。書いていただけると指名依頼があった場合に呼び出されやすくなります。ですが技能は冒険者にとっての飯の種でもありますので記載は自由です」

 ときどき説明をしてくれる受付嬢の言葉に従って必要な内容を記入する。

「お疲れ様でした。少しお待ちください」

 そういうと、受付嬢は書類を持っていったん下がった。

 しばらくすれると、一枚のカードと手紙のようなものを持って戻ってきた。

「このカードの血を一滴垂らしてください。それで登録は完了です」

 言われたとおりに地をカードに垂らすと一瞬だけカードが光った。

「お疲れ様でした。ところでカグラさん、いくつか確認したいことがあります」

「?」

「とある冒険者からカグラさん宛に手紙が預かっております。つきましては、ご本人かを確認させてください」

 そういうと、受付嬢はいくつかの質問をしてきた。

 最初の質問で相手がミナトであることを確信したおれは、恥ずかしい質問に答える羽目になった。

 おのれミナト、後で覚えておくがいい。

「本人確認が取れました。こちらがミナトさんからカグラさんへの手紙になります。あと『再会の渚』という宿に泊まっていると伝言を受け取っております」

「ありがとう」

 手紙を受け取り、宿の場所を確認すると受付を離れた。

 冒険者ギルドを出ると、俺は『再会の渚』に向かって歩き出した。

 このあと、アンリともう一度再会して、一悶着あるのだけれどそれはまた別の物語。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る