第10話 二人の選択

「別々に転生した後に合流できるような技能?あるよ」

 とりあえず相談してみようと言うことで店長に聞いてみたところ、あっさりと答えが返ってきた。

「一番いいのは、最初に転生した湊くんが転生した場所からほとんど動かなければいいんだけれど、それはいろんな意味で難しいだろうから、何らかの技能あるいは特典チートをもっておいた方がいいだろう」

 転生したところから、動かないというのはむりだろう。

 数日程度なら可能でも、ずっととなると食糧の確保など生きていくために必要なものを手に入れるという意味でも難しい。

 そもそも、湊は一つの場所にとどまっているのが落ち着かないからと転生するのに転生先でずっと同じ所にいるのでは本末転倒だ。

「で、その方法なんだけど、一つは湊くんの時間を一時的に止めて、神楽くんが転生する時にいっしょに転生させる方法。湊くんの時間は止まってるから神楽くんが転生するまでの時間は事実上なかったことになる。もっとも、これは湊くん的には時間の無駄だからあんまり意味がないけど代わりに特に必要な技能もないから一番楽な方法だよ」

「それをするなら神楽といっしょに追加の技能をとった方がいいな」

「そうだね。次は神楽くんの転生先を湊くんが転生した時間と場所に指定する方法。この酒場からなら、ある程度は時間のズレは調整出来るからね。たぶん、現実的で一番楽のはこの方法。だけど、これもまたお勧めはしない」

「どうしてですか?」

「神楽くんと湊くんの時間の流れがずれてしまうからさ」

「神楽は技能を取る間に時間が進むが俺の時間は進んでないからな。その分、意識の違いとかが生まれるってことか」

 昨日までは同級生だったのに、次の日には年上になって性格が落ち着いていたりしたら違和感しかなく、まるで別人と接している気持ちになるだろう。

「となると、転生した湊くんのところに神楽くんを転生させるというのがいいんだろうけど、これもあまりおすすめできない」

「どうしてですか?」

「この特典チートだと、合流するだけだからその後はなんの役にも立たないんだ」

 本当に合流するだけの特典チートだから、あまり意味がないらしい。

 一応、探索などで別れたり、迷子になっても必ず合流できたりはするもののそれ以外の価値がないので、推奨しないらしい。

「これをとるくらいなら、確実性は下がるけれど合流した後でも使える技能をとることをお勧めするよ。例えば通信系の技能とかね」

「通信系は確かにいいな。連携とかがとりやすくなりそうだ」

「後は誘導系のスキルかな。失せ物探しなんかに使えるから、うまく使えばトレジャーハントに役立つし」

「湊を追いかけられるスキルがあればいいと言うことですね」

「うん。といっても、この辺はあくまで可能性をあげたりするだけだから、確実に合流できるわけじゃないんだよね。だから、確実性を求めると、さっきの特典チートも悪くはないんだけど、後々のことを考えたらね。両方とってもいいけど、それはそれで時間がかるでしょ?」

「確かに」

 あくまで合流するための方法を考えてるのであって、技能を増やしすぎて時間がかかったら本末転倒だ。

「そうだ、ちょっと待ってくれるかい?」

 そう言うと店長は女将に頼んで人を呼んだ。

 しばらくすると、一人の女性がやってきた。

「店長、どうかしましたか?」

「やぁ、シャーロット。この二人の相談に少し乗って欲しいんだ」

 そう言って、店長は女性を俺たちに紹介した。

 彼女の名前はシャーロット。

 腕利きの探偵なんだそうだ。

 俺たちは彼女に事情を説明してアドバイスをもらうことにした。

 探偵と言うだけあって、人を探すときに考え方から実際に追いかける際にどんなこことに注意すればいいかという話をいろいろと教えてくれた。

 途中、変なスキルを推奨されたりして、通りがかった女将に諫められたりもしたが、欲しかった情報は一通り手に入れることができた。

 その後、俺たちはどの技能をとって、転生後にどうやって合流するのかなどを何度も話し合った。

 そして、必要な技能を手に入れた湊は転生していった。

 湊を見送った俺は酒場で残りの技能を習得するために依頼をこなす日々を過ごし、湊に遅れること数年、この酒場を旅立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る