第8話 閑話~女将のお仕事
「店長、無事転送が完了しました」
「お疲れ様、処置の方は?」
「記憶を消去した上で、能力もいくつか剥奪しておきました」
「結構」
女将の報告に店長は満足そうにうなずいた。
女将の仕事は転生者の泊まる宿の管理だが、それ以外にも実は役目がある。
それは転生者たちの資質を見極めることだ。
性格が悪かったり、問題がある魂はこの酒場に来る前に選別されるのだが、ときどきこの酒場で強い能力を手に入れたがために性格が曲がってしまい、結果として転生先で問題が発生することがある。
そういう問題が起こしそうな転生者がいた場合は、事前に注意するなどして矯正はするのだが、治らない場合は今回のように強制的に転生して排除することもあるのだ。
「転生先で問題が起こらないようにこの酒場で訓練をしているのに、問題を起こすようなまねをすれば排除対象になることくらいわからないのかな」
「それがわかるようであれば、そもそも問題など起こしていないのでは?」
「わからなくても、問題を起こさない子はいるよ、彼の幼馴染みたちとかね」
彼は気づいていなかったようだが、幼馴染みたちは彼の隠していた本性を見抜いていた。
そして、この酒場ではそういう悪意から身を守る術を未熟ながらも身につけようとしていた。
あのまま彼がなにかをしたとしても失敗する可能性は高かっただろう。
「二人にはなんと伝えますか?」
「そうだね、なんとなく事情は察しそうだけど、適当に誤魔化しておいてくれ」
「承知しました」
こんなくだらない真実なんて、知る必要はないだろう。
「信士が転生した?」
酒場で朝食をとっていると、女将さんたちが話を聞いた陽菜が飛んできた。
何事かと言えば信士が突然転生して酒場を去ったと伝えられた。
「女将さんと店長さんが言うには、悠を追い出したことで立場が悪くなったからこれ以上悪化する前に転生したいって言ったんだって」
「ふむ」
立場が悪くなったから転生して逃げた?
あの信士の性格を考えれば逃げるという選択肢はないと思うんだけどな。
別の理由がありそうだけど、すでに転生してしまった以上考えても意味はなさそうだ。
「あと、急の話だったから転生先は私たちとは違う場所になったみたい」
「・・・」
信士のやつ、なにをやったんだ?
転生時期は任意で変更できたけど、転生先は決まっていたはずだろ?
そのうちなにかやるだろうと思って警戒はしていたけど、まさかここから追い出されるなんて。
店長さんに聞いてみたいけど、答えてはくれないだろうなぁ。
でも、これでとりあえず目に見えていた問題は解決したかな。
今後も同じようなことがないか気をつけないと。
転生したら陽菜を守れるのは僕だけだしね
「それよりも、パーティーにもう一度戻ってくれないかな?みんな反省してるし、信士が抜けた分を埋め合わせたいの」
「んー、今の段階で安定するようになったら考えるよ。自分の足りないものをまず知って、ある程度補えるようになった方がいいと思うし」
「一理あるわね」
「それに、今引き受けている仕事もある。それが終わるまではどちらにせよ無理だね」
「そっか。じゃ、うまく調整して合流できるようにしておく」
なにはともあれ、今日も頑張ろうっと。
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