第7話 転落した転生者(信士視点)

「くそ、どうしてこうなった!」

 俺は自室で今の状況を考えていた。

 あいつを、悠を追い出したところまでは俺の計画通りだった。

 生産職寄りの技能をとっていた悠は戦闘では役にたっていないはずだった。

 足手まといではないものの、俺たちから見れば力不足だった。

 だから、俺は陽菜を除くパーティーメンバーを言いくるめて、あいつをパーティーから追い出した。

 あいつがあっさりと抜けたことで、あいつに対する印象を変えられなかったのは残念だったし、陽菜が抜けようとしたのは想定外だったが、引き留めることができたのでうまくいったと思っていた。

 だが、それ以降はまったく思い通りにはならなかった。

 あいつが抜けたことで、素材の採集や解体がうまくできず、これまでは問題なくこなせていた依頼がこなせなくなってしまった。

 加えて、あいつがいなくなったことで回復薬の費用など出費がかさんだ結果、収入は以前の6割近くまで落ち込んでしまった。

 とどめは使っている装備の整備費が用意できなくなってきたことだ。

 よい武器を使うほど整備費は高くなるが、あいつはその費用を抑えるために整備に使う素材を自前で用意して納品していたらしい。

 そのおかげで、俺たちは本来なら維持が難しい装備を使うことができていたのだが、あいつがいなくなってしまったいま、正規の費用を出さなければならない。

 ただでさえ落ち込んでいる稼ぎでこの整備費は厳しく、結果装備の質を下げるしかなかった。

 そうなれば、当然こなせる依頼の難易度は下げざる終えず、さらに報酬が下がるという悪循環に陥っていた。

 邪魔者がいなくなれば、うまくいくと思っていたのに、気づけば自分が追い詰められていた。

「しかも、今度は俺が追い出されるだと・・・ふざけるなぁ!」

 パーティーメンバーたちはすでに俺を信用していなかった。

 あいつが抜けることの影響力をまったく理解していなかったがために、リーダーとしての資質がないと表されてしまったからだ。

 逆に陽菜はあいつが抜けた後、傾いたパーティーの立て直しをしたことから実質上のリーダーとなっていた。

 役に立たないリーダーなどいらないというわけだ。

「くそ、このままじゃ・・・」

 あいつに頭を下げて戻ってきてもらうか?

 いや、そんなことをしてもパーティーを追い出されないだけで俺の信用は回復しない。

 ・・・まてよ?

 別にパーティーメンバーなんていらなくないか?

 俺が欲しいの陽菜なのであって、別にパーティーメンバーの代わりはいくらでもいる。

「は、ははは・・・そうだ、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ」

 あいつがパーティーに戻ってくる前に陽菜を手に入れてしまえばいいだけじゃないか。

 二人がそろってしまえば今度こそ手が出せなくなる。

「問題はどうやって陽菜をおびき出すかだが・・・」

 そこまで考えたところで、人の気配に気づいた。

 振り返ると、そこのは女将がたっていた。

「女将さん?」

「信士さん、店長から伝言があります。」

「店長さんからの伝言?」

「はい。『急な話で申し訳ないが、君はこれから転生してもらうことになった』とのことです。」

「は? 」

 言われたことが理解できず、唖然とする俺を見ながら女将は言葉を続ける。

「あなたのようにこの酒場で問題を起こした人は強制転送されるのですよ。」

「ちょっと待てくれ、俺はなにも悪いことは・・・」

「幼馴染みをはめておいて悪いことはしていないと?面白いことをおっしゃいますね、信士さん」

「っ!?」

 俺がやったこともやろうとしていることもいる?

「この酒場はただ転生の手助けをするだけの場所ではないのですよ」

 とっさに逃げようとした俺の耳に、そんな女将の言葉が聞こえたと同時に俺は意識を失った。

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