第4話 閑話~店主と女将の会話

「やれやれ、とりあえず形にはなったかな」

「お疲れ様です、店長」

 そういって、女将はお茶を渡してきた。

 受け取って口をつけると、ほどよい温度のお茶が喉の渇きを癒やしてくれる。

「初めての転生者が素直な子たちで助かったよ」

 先ほどまで相手をしていた転生者たちを思い出しながらそう言うと女将は苦笑する。

「現役の創造神たちがしっかりしていれば、隠居した僕が働く必要なんかないだろうに」

 そもそもの原因は転生者たちが箱庭に及ぼす影響について、管理者である創造神たちが十分に理解していないことにある。

 いや、理解はしているのだがどういった対応が適切かという基準がよくわからないのだ。

 転生する箱庭の状況、転生理由、対応する創造神の意向など、不確定要素が重なり合った結果、箱庭の管理に影響が出るという悪循環が生じている。

 これに対応しようと、一部の創造神たちが考えた対策がこの転生酒場という新たな箱庭の創造だった。

 転生前に転生の準備をする場所を用意して、転生者に教育を施してから転生させることで、箱庭に及ぼす影響を少しでも緩和しようという試みである。

 これまでは予備知識もなにもない状態で転生させていたため、必要以上に強い能力チートを付与していたことが混乱の原因であった。

 そこで、あらかじめ転生先に順応するような教育を施してしまえば、強すぎる能力を付与する必要もなくなり、結果混乱も起こりにくくなるというのである。

 しかし、現役の創造神たちにそんな手間をかける余裕があるわけもなく、結果として引退した創造神が呼び出されることになったというのが事情である。

「取り急ぎ、あの二人の教育をする人材を確保しないと」

「必要最低限の教育担当者は用意していますが、あの子たちの選択で必要な人材が変わりますから」

「そのあたりは協力してくれる創造神たちの眷属を借りることにしよう。転生先の箱庭の資料は?」

 女将から資料を受け取ると、転生先の箱庭の情報と管理者である創造神に頼んで要してもらった教育係に関する情報に目を通す。

「ふむ、優秀な人材を用意してくれたようだが、少し年配過ぎないか?」

「生きている子供を箱庭から連れてくるわけにはいきません。となると、生まれ変わる前の子供を見繕う必要があるわけでして、そう考えるとどうしても年配の方になってしまいます」

 戦闘スキルや生産スキルであれば、それなりに人も集められるが、転生先の箱庭の常識といった内容については、その箱庭のそれも転生する時の内容でなれば役に立たない。

 そこで転生先の箱庭で死んだ後、再び生まれ変わる前の子供を呼び寄せ、転生時に特典を与える代わりに教育係として雇うことにしている。

「まぁ、一応この分野の研修は実地を再現した箱庭で実習もするから大丈夫かな」

 戦闘訓練もだが、基本的の座学だけでなく実戦訓練もそれなりに行うことになっている。

 強いスキルを身につけているのに、扱い方がでたらめだと悪目立ちするからである。

 そして、それが転生者が世界に混乱をもたらす原因の一つでもある。

「結局、手探りでやっていくしかないか」

 そもそも異世界転生が多発して混乱する箱庭が増えてきたとはいえ、箱庭の総数から見れば微々たるものだ。

それだけにうまく対処できた例なんて本当に数えるほどしかなく、ほとんどが参考にならないのである。

「とりあえず、隠居している知り合いに頼んで研修用の箱庭環境を用意するか」

「取り急ぎ、このあたりから整備していくとよろしいかと」

 女将から差し出された資料を見ながら、当分は休めないだろうこととため息が漏れた。


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