第3話 はじまりの転生者たち03

「湊、そろそろ出発するわよ」

「わかってる・・・・・・よし、店長さん、行ってきます」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

 店長さんに見送られ、僕たちは酒場の扉をくぐる。

「依頼内容は頭に入ってるよね」

「もちろん。失敗したら赤字じゃない。もう前みたいなひもじい思いはいやよ」

「それじゃ、移動しながら段取りを確認するよ」

 酒場に来てから数ヶ月が過ぎた。

 その間、いろんな人から研修を受けたり、実際に経験をしながら過ごした。

 最初に決めたとおり、酒場の滞在期間が過ぎても僕たちはこの酒場に滞在していた。

 未成年でアルバイトもしたことがない僕たちではあるが、転生先の基準であればすでに働いている年齢。

 最低限の経験は積んでおくべきだろうという僕の意見に花梨が賛同したからだ。

 それに、努力すればそれだけ転生後の生活が楽になるのだから頑張れるだけ頑張ろうという話で落ち着いた。

 店長さんや女将さんに相談して、仕事やスキルの研修計画を立てると僕たちはそれをこなす毎日を過ごしてる。

 そうそう、宿の部屋だけど少しだけグレードが上がった。

 研修期間が終わって宿代を払うようになり、居候からお客様になったのでそれまでの部屋より少しだけサービスがよくなるらしい。

 お金を払っているのだから、そこは当たり前ですと女将さんは笑っていたけれど、自分の稼いだお金でこういう経験をしたことがなかったので少し新鮮だった。

 なお、研修期間が終わったところで、花梨とは別々の部屋を用意した。

 花梨は不満顔ではあったが、僕の方がいろいろ我慢できなくなりそうだったのでここは押し切った。

 まぁ、特に用がないときはどちらかの部屋に入り浸っているので相部屋でも問題はないと思ってる。

 ただ、素を見せるのは恥ずかしいのでもう少しだけ一人部屋でいるつもりだ。

 お互い子供の頃からの付き合いので今更だとは思うけれど、こればかりはしかたないと思う。

 へたれと言われても困るので、そのあたりは改善予定・・・花梨、喜んでくれるといいけど。


 そうそう、僕たちがこっちに来てからしばらくして何人かの転生者がやってきた。

 僕たちの世界とは異なる世界の人もいれば、似たような世界から来た人もいた。

 中には僕たちの転生予定の世界に似た世界から来た人がいていろいろと教えてくれた。

 特に貴族と宗教については要注意と釘を刺された。

 一定の距離感を必ず保っておかないとなにかあったとき逃げることもできなくなるそうだ。

 話には聞いていたけれど経験者の言葉は重みがあって花梨とぞっとしたものだ。

 また、転生者の一部はすぐに転生してしまう人も少なくないようだ。

 やはり、同じところにずっといるというのに耐えられない人もいれば、強制的に転生させられる素行の悪い転生者もいたようだ。

 ちなみに、その一人は僕にも関係があったりする。

 花梨に手を出そうとしたところを僕に返り討ちにされ、逆恨みして襲撃しようとしたところを女将に捕まったらしい。

 仕返しに備えて警戒していたので、女将から褒められたものの酒場での対応が若干へっぴり腰だったのはいただけないとお叱りも受けた。

 このあたりはもう少し経験を積まないといけない。

 

 まぁいろいろ失敗もあったけど、僕たちは今日も酒場で暮らしている。

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