番外編 1-7

「良かった……」

聴き慣れた声と、右肩に伝わるほんのり暖かい感覚。

突然の出来事に、心臓も体も飛び跳ねる。

はぐれたと分かった瞬間から不安に苛まれて、気が付いたらうずくまっていたけど、ようやく私の王子様が迎えに来てくれた。

驚きと、喜びと、何よりも深い安堵。

私は飛び跳ねた体を翻らせ、後ろにいた王子様に飛びついた。


「わわっ」

カッコイイ登場から一転、王子様は飛びついてきた私を受け止めきれずに倒れそうになったけど、私は知っている。後ろに壁があることを。

だから、もう少しこのままでいたかった。

もう涙なんてとうに枯れているけど、どうにかすすり泣く演技を続けて、壁にもたれた彼の胸に顔を埋める。

外はとても暑いけど、その胸は熱いというよりはあたたかかった。


永遠にも思える時間が、過ぎていく。

このまま時が止まってしまえばいいのにと思ったりもした。

それでも、私たちはこの先に待つ新たな幸せに向かって進まなければならない。

そう思って顔を上げようとした矢先、ふいに私の背中に触れていた一つの手が無くなった。

噓泣きがバレたのかななんて怯えたのもつかの間、その手は私の頭にそっと触れ、私の髪を撫で始めたではないか。

頭をつけた胸からは鼓動の高鳴りを感じるし、かなりぎこちない手つきだったけど、これは反則ではないだろうか。

顔を上げるのを、躊躇った瞬間だった。




「もう大丈夫?」

頭上からそんな声がする。

本当はずっと前から大丈夫だったんだけど、ずっとあの興奮を感じていたかっただけの私は、彼の胸でこくんと一回頷いた。

「じゃあ、お祭り、行こっか。まだ、間に合うから。」

そう言って、彼は私の手を引いて歩き始めた。


「もう、絶対離さないから。」

これは誰にも内緒の、私だけの誓い。彼にも聞こえていないはずだ。

私は、新たな一歩を踏み出そうとしていた。

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