番外編 1-6
結局、僕は音無さんと花火大会に行くことになった。
諦めていたのに行けそうだとなった時は興奮のあまり、許可取りもせずに彼女の手を引いたけど、思い返せばかなり気持ち悪い行動だったと思う。
事情を話して理解してもらえたから良かったものの、あの行動が原因でフラれても文句は言えないことだろう。
数分おきに発着する上りの電車に乗り、会場へと向かう。
花火大会までは約1時間あるが、既に電車は満員に近く、僕たちはわりと密接な距離で立っていなければいけなかった。
これまで数回デートをしてきたが、流石にここまで音無さんと近づいたのは初めてで、時折感じられる体温と香りに理性を保つのが精一杯だった。
今までの人生で最も長い20分弱を過ぎ、会場最寄りの駅に着くと、電車に乗っていた人のほとんどが降り始めた。
駅まで続く祭りの熱気に気圧され感嘆していると、一瞬のうちに音無さんを見失ってしまった。
探そうにも人の波に逆らうことは困難で、僕の小さい呼びかけの声に応じる声は聞こえない。
近くにはいるはずなのに、見つけられないのがもどかしい。
はぐれて数分も経たないのに、何ヶ月も会っていないような不思議な感覚。
今日は3時間以上もの時間を一緒に過ごしたばかりだというのに。
半年前までこんな感覚、無縁だと思っていたのに、今はその感覚にまんまと嵌ってしまった。
どうしたら再会できるのかと考えを巡らせる。
もう一度声を上げようか、それとも彼女も進んでいると信じて会場まで歩を進めようか。
そう逡巡している間にも駅には両方向から電車が到着し、人波は収まるどころか増すばかりだ。
これではもう見つけられないだろう。会場でどうにか落ち合えばいいか。
そう覚悟を決めて、歩き出した時だった。
10mほど先に、わずかに見えた薄暗い路地。
そこに、大きくて丸い影が見えた。
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