番外編 1-5
連れてこられたのは、ショッピングモールの隣の駅。
少し強引に手を引く草間君の姿はあまりにも新鮮で、私の胸は大きく高鳴っていた。
しかし、いくら彼氏とはいえ、何も言わずに手を引かれて歩くというのは怖いものがある。私は心配になって、「どこに行くの?」と尋ねた。
その言葉にハッとしたのか、草間君は歩みを止め、いきなりこちらを振り返って神妙な面持ちになった。
「あの……ぼ、僕と、一緒に花火大会に行きませんか?」
先程までの強引さが嘘のような声の震え方と、テンションの変わりように、私は思わず吹き出してしまった。
提案には少なからず驚いたが、今日は元から夕食まで一緒に食べて帰るという予定だったし、夜に予定など無いのだから、私に断る理由など無かった。
話を持ち掛けた本人は、私に笑われたことを不思議に思っているようだったが、理由を聞かれなかったので気づいていないふりをしておいた。
そうと決まったのならば行動は早い方がいい。
私は買ったばかりの衣服たちを駅のコインロッカーに押し込み、花火会場行きの電車が停まるホームへと向かった。
幸い、会場に向かうための電車は数分おきに来るらしく、すぐに電車に乗ることができた。
既に車内は会場に向かうらしき人で溢れかえっており、私たちはこの人の多さに圧倒されていた。
十数分が過ぎ、電車は会場最寄りの駅に到着した。全てのドアから雪崩のように人が降り、土地勘のない私たちはあっという間に人の波にのまれることとなった。
あまりの人の多さに驚くあまり、私は隣にいたはずの草間くんを見失ってしまった。
声を上げても、人々の声と祭囃子ですぐに搔き消され、一気に私は不安の渦に飲み込まれていった。
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