番外編 1-3

私は焦っていた。

待ち合わせの時間にはもう傾き始めていた太陽は、いつしか地平線に近づき、空は既に茜色を帯びてきた。


秋物を買いに来たはずなのに、店頭には夏物の余りだろう割引商品と、冬物まで混じっていて、「夏物を安く買っておけば来年困らないかな」とか「秋はすぐ寒くなるから冬物も買ってしまおうかな」なんて、店を何軒も行ったり来たり。「どうして私は今まで洋服に無頓着でいれたのだろう」と後悔をこえて不思議になってしまうほど、ショッピングモールという場所には本当に服が多い。前回来た時と比べても量はそれほど変わってないはずなのに、夏物、秋物、冬物と3つの誘惑があるせいで、それぞれに自分の好みが当てはまるから、特段多く感じるんだと思う。

とはいえ、こうして悩んでいる間にも時間は進み続けている。ふとスマホに目をやると、前回の3時間という記録に並びかけていた。こんなに優柔不断な自分に若干苛立ちも覚え始めていた。ここまで文句ひとつ言わず付いてきてくれている草間君に申し訳なくなって「ごめんね」と謝ると、「音無さんが後悔しない買い物ができるなら何時間でも付き合うよ。」と言ってくれた。

私の脳に電撃が走った。この言葉は、受け取り側の私からすると、「私が満足するのならどんな格好でも構わない」と受け取れてしまう。

彼はそこまで深い意図を持たずに言ったのかもしれないが、その言葉こそ私の心の奥底にあった一番の不安を取り除く言葉だった。


人間不思議なもので、不安がなくなると今までの迷いまでも全てが嘘だったかのように、ひととおりの買い物が終了した。本来の目的だった秋物はもちろん、結局誘惑に負けて夏物や冬物にまで少し手を出してしまったせいで予算より高くついたけれど、「後悔しない」良い買い物ができたと思う。


と、満足していたのもつかの間、草間君は私に「ついてきてほしい所がある」なんて言い出した。

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