番外編 1-2

窓から入る光が西に傾きはじめていた。部屋の暑さで目が覚める。

直感で「マズい」と思った。ふと時計を見ると13:00を指している。今日は月1回のデートの日。彼女……音無さんを待たせてしまうのはいけない。急いで身支度を済ませ、慌てて家を飛び出した。

デート場所は自宅にほど近いショッピングモール。前にも一回訪れたことがあった。

信号で止められる時間が永遠のように長く感じる。ふと時計を見ると集合時間の3分前を指していた。いつもならもう音無さんも来てデートをしている時間だ。自転車で風を切っているからか、不思議と汗は出なかったが、その代わりに冷や汗が止まらなかった。

駐輪場に着いて、音無さんを見かけたとき、咄嗟に「ごめんなさい。」の言葉が出てしまった。

「大丈夫。遅れてないよ。」

恐る恐る顔を上げた僕の眼前に差し出されていたスマホの待ち受け画面には集合時間である14:00の文字が表示されていた。


堰を切ったように溢れてきた汗を拭きながら、ショッピングモールの中へ入る。

「色々なものが揃う」というものの、8割以上の店では服を売っている。ファッションなんて1ミリも分からない僕にとっては無縁の世界だ。対して音無さんは毎回違う色彩の服を着て、改めて女性のすごさというものを教えてくれている気がする。僕なんてほとんどモノトーンだというのに。

ショッピングモールの8割以上を占める服屋の中でもやはり女性服の専門店が圧倒的に多い。今日の集合時間を前回より1時間早い14:00としたのもその店の多さが原因だ。前回、音無さんの服選びに本人が思ったよりも時間が掛かってしまったらしく、今回のデートの相談をした際に音無さんからすぐ打診があった。特に問題が無かったため承諾したのだが、このプラスされた1時間を超えてこのショッピングモールの中に居ることになるとはまだ知らなかった。

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