1-10
そんな考査から、一月が過ぎた。
今日は、大学入学共通テストの日だ。
私は今まで勉強してきた成果を、存分に発揮した。
何の憂いも無かった。自己採点でも、満足のいく結果だった。
前期試験も、自分の実力をしっかり出せた。
その結果、私は見事難関と呼ばれる国立大学に合格した。
そして、草間君もまた、同じ大学に合格していた。
草間君と学部は違うが、同じキャンパスで勉強できる。新生活に不安を抱いていた私は、それだけで心が一層軽くなった。
合格の余韻に浸っていた私は、その夜、喜びに体力を割きすぎたのか、いつもより少し早く寝てしまった。
次の日、そんな私を起こしたのは、アラーム音ではなく、着信音だった。
着信音を鳴らすスマホの画面には、「草間優祐」の名前が表示されていて、私の胸は高鳴った。電話口から聞こえた彼の言葉は、私にとって夢のような言葉だった。
夢でないことを確認したくて、私は家のベランダに出た。
閑静な住宅街に、風が吹いていた。その冷たい風は、私にこれが夢ではなく現実だと教えてくれた。
ふと隣の家を見ると、ベランダに私の新しい「彼氏」の姿があった。
驚いて声も出なかったが、彼は私の気配に気付いたのか、振り向いて、そこに居たのが私だと分かると、微笑んで、ぎこちなく手を振ってくれた。
久しぶりに笑った。私の動作もぎこちなかったが、彼の姿を見ているだけで、心が高揚した。
そんな時、また風が吹いた。
さっきは冷たかった弥生の風は、不思議とあたたかく感じられ、私たちを優しく包みこんだ。
心地良い風に思わず目を瞑っていた私が目を開けると、昏かった空が、東雲色に染まった。
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