1-9

彼女を突き飛ばしたあの日から、4か月が経った。


僕は彼女を突き飛ばしたことに負い目を感じていたが、皆僕を責めることは無く、当の本人からは感謝された。


事件以来、僕は一躍「時の人」となったが、学校や彼女の配慮で2週間も経たないうちにその話題も口にされなくなり、僕はまた注目されない生活に戻った。


そんな中、一つだけ変化したことがあった。それは成績だ。


自分でも信じられないほどに成績が伸びた。




あの1件以来、音無さんは僕に話しかけてくるようになった。


最初は他愛もない話をしていたが、ある日僕がふと「受験にあたって学力に自信がない」というようなことを口にすると、待ってましたと言わんばかりに、「私が教える」と言い出した。自身の勉強もあるから……と断ろうとしたが、結局断らせてもらえなかった。


後に理由を聞いたところ、「助けてもらったお礼がしたかった」と言われた。


彼女の教えは僕にとってかなり分かり易く、1週間後の卒業考査では日本史と化学で学年1位を取ることができた。勿論、総合得点では彼女に遠く及ばなかったのだが。




その後も、彼女の指導は続き、大学入学共通テスト、前期試験と高得点を取れた僕は、音無さんと同じ大学に入学できた。


音無さんと学部は違うが、同じキャンパスで勉強できる。それが僕は嬉しかった。


合格したその日、僕は嬉しさのあまり、眠れなかった。気がつくと時計の針は6時30分を指していた。


ふと、この喜びを彼女と分かち合いたいと思った。


勉強を教えてくれた彼女に、お礼がしたいと思った。


そこまで思って、そんなに彼女を想っている自分に気付いた。


ならば、喜びよりも先に、言うべき言葉があるだろう。


今までと違って、すぐに覚悟ができた。




ぼくは彼女に電話を掛けた。


家族に聞かれるのは恥ずかしかったので、自室のベランダに出た。

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