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俯いて歩いていた僕の耳はいつもより敏感で、その微かな音を感じ取った。


こんな校舎の辺境から音がするなんて最初は勘違いかと思った。


恐い筈なのに、自然と足が音、いや、「声」のする方へ近づいていく。


階段を上ると一層、「声」は大きく聞こえた。


近づけば近づくほど奇妙だ。確かこの辺りは廃教室が続いていたはずだ。


甲高い女性の笑い声に混じって、低い唸り声のようなものが聞こえる。


「声」が聞こえるのは、最奥の教室らしい。


僕は不信感を抱きながらも、ゆっくり着実に歩を進めた。


「これはいじめだ。」


そう確信した瞬間、いきなり足が止まった。


「たとえ加害者が女子だけでも、僕は敵わない。」


今の僕に唯一分かるのは、これだけだった。


僕は非力な自分を嘆いた。


しかし、知ってしまった以上、「知らなかったこと」にできるほど、メンタルは強くなかった。


とはいえ、無策で中に入ればやられるだけで、教師を頼っても頼る教師が悪ければ被害者がどうなるか分からない。


それに、目で見たわけでもないのだから、証拠も無い。僕は腹をくくって、ポケットからスマホを取り出した。


カメラアプリの録画ボタンを押すと、異様に胸が高鳴った。


元々薄い気配を殺すことは容易だった。


制服が汚れることは厭わず、音を立てないよう匍匐で声のする教室まで進んだ。




音を立てないように、ゆっくりと腕を上げる。


スマホのカメラが窓のガラス部分に到達したのを確認し、僕はまた無音でその場を後にした。




スマホの高画質カメラは、いじめの現場をしっかり捉えていた。


そこには、不真面目で知られる音無聡里が茶色い塊に顔を近づける姿と、彼女を嘲笑う加害者の姿が映し出されていた。

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