盲目

香豊大

1章

1-1

周囲の喧騒は、嫌いな「私」の存在感をかき消す。


空は昏く、霜月の風は私の体を貫く。


「私」という存在を嫌いになったのはいつだっただろう。既に忘れてしまった。


いっそのこと死んでしまえば楽なんだろうという思いが今まで幾度となく頭をよぎったが、


そんなことをすれば「奴ら」が悦ぶだけだ。




奴らは狡猾で、悪辣だ。


教師にはうまく表の顔しか見せず、そんな表の顔に相応しい評価を戴いている。


対して私はというと、


「ウチらより高い評価貰ったら許さないから。」


と脅され、不真面目でバカな生徒でいることを強要された。


そのせいで教師からは怒られ、助けを求めても素行を理由に相手してもらえなかった。


バカを演じるのも大変だ。意図して悪い点数を取らないといけないのは、正解を重ねるよりも難しい。


三年間も続けていると、頭がおかしくなりそうだった。


一年目は「本当は私の方ができるのに」と思っていたが、いつの間にかそんな感情も抱かなくなった。


私は本物のバカになったのかもしれない。




奴らは、私にだけ裏の顔を見せる。


罵倒は既に日常になっていた。


暴行が少ないのは、イジメの事実を浮き上がらせないためなのだろう。


毎日、廃教室に連れ込まれ、様々な辱めを受ける。


そこで私は、ヒトとして扱われない。


今日の昼食は、老犬用のドックフードだった。


それを私は、嗚咽を漏らしながらもなんとか食べすすめる。


奴らはそんな私を言葉通り「見下し」ながら、ヒトの昼食を摂っていた。

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