第8話:応えられるのだろうか

 一週間経ったが、答えは未だに出ない。

 いや、結論はもうとっくに出ている。私は彼女と付き合いたい。だけどそれが恋愛感情によるものなのかがわからなかった。私はただ、彼女の好意を利用しようとしているだけなのではないだろうか。


「桃花ちゃん、最近ずっと難しい顔してるね。なんか悩みでもあんの?」


「……うん。ちょっとね」


「もしかして……恋の悩みだったりして」


 友人の一人であるひまりがそう言うと、周りの男子が一斉に私達の方を見た。そしてざわざわし始める。


「あー……えっと……うん……まぁ……」


「どんな人?あ、もしかして……ちょっと前に助けてもらったっていう、あのヤンキーの中の誰か?」


 ヤンキーと聞いて更にざわつく男子たち。


「うん……まぁ……」


「うっそ!誰?やっぱ一番背が高くて比較的穏やかそうだった人?」


 友人達は育実とよく一緒に居る三人の特徴を次々と挙げていく。全てに曖昧な返答をしていると『もしかして番長さん?』とひまりが言った。番長というのは育実のことだ。ただのあだ名ではなく、本当に不良グループのトップに君臨しているらしい。


「えっ。番長ってあの女の子?」


「流石にそれは……」


 否定しかけた友人達だが、私の反応で察したのか黙り込んだ。やっぱりそうなんだと、核心をついたひまりがニヤニヤする。彼女は同性愛に対する抵抗は無いようだ。他の二人——ゆき秋穂あきほも驚いてはいたが否定はせず、むしろ興味を示してきた。どこが好きなの?とか、いつ気付いたの?とか質問責めされたじたじになってしまっていると、彼女からメッセージが届いた。『会いたい』の一言。それを覗き見た友人達がニヤニヤする。


「ち、違うよ!まだ付き合ってないから!」


ですって。聞いた?」


「うっ……いや、付き合う気は……」


「無いの?好きなんでしょ?」


「……好きなのかな」


「どう見ても好きじゃん。顔真っ赤だよ」


「う……」


「女同士だからとか、今はもうそんなん古いって。付き合っちゃえ付き合っちゃえ」


 そう言ってひまりは私のスマホを奪い『私も会いたい』『好き』『付き合いたい』と勝手に返信した。


「あっ、ちょっと!」


 慌てて取り返し、友人が勝手に送ったと弁明する。すると『あんたの答えはもう出ましたか?』と返ってきた。どう返信するべきか悩んでいると『あたしは本当のあんたが好き』『猫被ってない素のあんたが好き』『見た目と中身のギャップが堪らないくらい好き』『あたしの恋人になってよ桃花さん』『お試しでもいいから』と口説き文句が次々と送られてくる。


「うっわ。凄っ。めっちゃ口説いてくるじゃん」


「ガチ口説きじゃん」


「も、もう……恥ずかしいけぇ……見んで……」


 スマホを奪い返し机に伏せて、真っ赤になっているであろう顔を隠す。


「女の子って言った?」


「ま、まじで?百合じゃん」


「望月さんならありだな」


「桃花ちゃんじゃなくてもありでしょ。てか、ありなしとか上から目線やめなよ。普通に差別でしょ。それも」


「大体、盗み聞きしてんじゃねぇよ。キモ」


 なんだか男子と女子で言い争いが始まってしまったが、それ以上に自分の心臓の方が騒がしい。女の子に口説かれてドキドキしたのは初めてだ。いや、そもそも女の子に口説かれるということ自体初めてだ。

 彼女の想いに応えたい。だけど、本当に応えても良いのだろうか。応えられるのだろうか。『お試しでもいいから』という言葉に甘えても良いのだろうか。

 悩んでいると、彼女からもう一度『会いたい』と送られてきた。私はそれに対して、意を決して『今日の放課後、そっちに行く』と返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る