第5話:お前が男だったら

「そう。めちゃくちゃ可愛いんすよ」


「良いなぁ。私も蛇飼いたい」


「家族が許してくれない感じ?」


「そう。弟が『無理!怖い!』って。だから一人暮らし始めるまでは我慢してる」


「弟居たんだ」


「うん。可愛いよ。今度写真送るからヘビの写真と交換な」


「はははっ。なにそれ。どれだけ弟好きなんだよ。てか、うちに直接見に来れば?」


「行く。行きたい」


「ちなみに、亀も飼ってるよ。あれ?亀って爬虫類だっけ」


「うん。爬虫類だよ。亀も好きだよ」


「庭にでっかい池があってさ。そこに住まわせてる」


「……育実ん家って、結構広い?」


「そこそこ」


「そこそこの家にはデカい池ないだろ」


 育実と爬虫類の話で盛り上がる。家族以外の前で素を出したのはいつぶりだろう。偽りの自分を演じなくて良いのは楽だなと、改めて感じた。


 その日から私は、毎晩のように彼女と電話をするようになった。

 これくらい話があって気を遣わなくて良い人が恋人だったら、きっと毎日が楽しいんだろうな。そう思うようになっていったが、当たり前のように自分も彼女も異性愛者だと思い込んでいた私には、彼女を恋人にしたいという発想に至ることはなかった。故に私は何度も彼女に言ってしまった。


『育実が彼氏だったら、毎日が楽しいんだろうな』


 とか


『お前が男だったら好きになってかも』


 とか。その言葉に彼女がどれだけ傷つけられてきたかなんて、その時の私は知りもしなかった。

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