第4話:一目惚れ
「……望月桃花」
望月は満月を意味し、桃は果物の桃。
とうかというクールな音の響きとは裏腹に、可愛い名前だ。
名は体を表すというのはこのことだろうか。
一週間前、路地裏に連れ込まれる彼女をたまたま見かけた。
普通なら警察を呼ぶところだが、自分が行った方が早いと判断し、一緒に居た友人達と駆け付けた。
すると、一人の少年が路地裏から出て来て逃げるように去っていくのが見えた。
「女の子ほったらかして何逃げてんだよ……!」
あの子は大丈夫だろうか。その一心で足を早めると、そこに広がっている光景に唖然とした。
大柄な高校生くらいの男子三人が傷だらけになりながら転がっており、立っているのは少女一人。彼女は無傷だった。
「うっわ……もう伸びてる。姐さん、嘘でしょ」
「違う。あたしじゃない」
「……私も違います。さっき、気弱そうな男の子が私を助けて——」
彼女が平然と嘘を吐こうとした瞬間、倒れていた少年の一人が立ち上がり、彼女に殴りかかろうとした。彼女はそれに対して、振り向きもせずに回し蹴りをくらわせた。
倒れた少年の方を見て、そしてあたし達の方を見て、それでも平然と「気弱そうな男の子が助けてくれたんです」と言い張った。
「いや、嘘だろ。今の回し蹴りエグかったっすよ」
「いや、私は何も—— 「あんた、可愛い顔してなかなかやりますね」
友人の一人がそう呟くと、彼女は悲しそうな顔をして、目を逸らした。
そして、逃げるように去って行った。
「あっ……褒めたつもりだったんだけどなぁ」
「けど可愛かったなあの子。あの回し蹴りはエグかったけど」
「……どこの学校の子なんだろう」
呟くと、三人の友人達は一斉にあたしを見た。
「な、なんだよ」
「育実さんもしかして……」
「……一目惚れ?」
「惚れっぽいもんなぁ。育実さん」
「う、うるせぇ」
友人達の言う通り、あたしは彼女に恋をした。後ろから襲いかかろうとする男を見向きもせず蹴り飛ばしたあの一瞬で、可愛い見た目とのギャップに心を奪われてしまった。
「追いかけて連絡先聞いてこようか?」
「馬鹿、やめろ。キモいことすんな」
名前も年齢も、住んでいる場所も分からない人への一目惚れ。残念だが諦めるしかない。
——と、思っていたが、まさか再会して連絡先まで交換してしまうとは。
「……運命だったりして」
なんて、彼女のアカウントのトップ画面を眺めながら柄にもないことを考えてしまう。トップ画像は猫。猫が好きなのかと聞いてみると「嫌いではないけど特別好きではない」と返ってきた。爬虫類や昆虫が好きらしい。
「爬虫類……お前も爬虫類だっけ?」
うちでは真っ白なコーンスネークを飼っている。写真を撮って「爬虫類ってこういうの?」と聞いてみると「そう!」と返ってきた。
チャットから電話に切り替えて、それからしばらく、爬虫類の話で盛り上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます