第2話:やってしまった
高校デビューして一年経ったある春の日のこと。路地裏で、柄の悪そうな少年三人が一人の少年を囲んでいるところを見かけてしまった。囲まれている少年が怯えるように財布を差し出す。少年達はその財布を奪って中の札を抜きとって数えると『これだけかよ』と言って少年を蹴った。
お淑やかな大人しい女の子はこういう時、どうするのだろう。警察を呼ぶ?周りの人に助けを求める?そう考えてているうちに、彼らと目が合ってしまった。そして路地裏に引き込まれてしまう。
壁に身体を押し付けられ、腕を押さえられて、ニヤニヤする少年達に囲まれて、身体を触られる。流石に身の危険を感じた。こんな時まで大人しい女を演じていたら確実に犯される。
「触んじゃねぇよ。クソが」
腕を抑えつけていた少年の股間を思い切り蹴り上げて抵抗する。仲間も、カツアゲされていた少年も痛そうに顔を顰めたが、これくらいなら正当防衛で許される筈だ。
「このクソ女!何しやがんだ!」
「いや、普通は抵抗するだろ。悪いけど私、見た目ほど大人しい女じゃないんでね。それよりほら、痛い目に遭いたくなかったらお金返してやんな」
挑発すると、彼らは一斉にかかってきた。久しぶりの喧嘩で本当の私の血が騒いだ。大人しい自分を演じることに疲れていた私は、ストレスをぶつけるように少年達を殴った。カツアゲされていた少年が「もうやめて」と言うまで。気付いた時には、私の拳は血塗れになっていた。
盗られた金を少年に返してやると、少年は化け物でも見たような怯える目で私を見て、お礼も言わずに逃げて行った。
「……ちっ……」
思わず舌打ちしてしまうと、少年と入れ替わるように一人の少女が息を切らしながら現れた。少女は驚くように目を見開いた。
そしてその後を追いかけて来たのか『姐さん速いっすよ』とか言いながら三人の少年が合流する。
「うっわ……もう伸びてる。姐さん、嘘でしょ」
「違う。あたしじゃない」
首を振って、少女は私を見る。
「……私も違います。さっき、気弱そうな男の子が私を助けて——」
咄嗟にカツアゲされた少年のせいにしようとしたが、後ろから殺気を感じて思わず避けて回し蹴りを喰らわせてしまった。
少女と一緒に来た少年達がぽかんとしてしまう。やってしまった。
「……気弱そうな男の子が助けてくれたんです」
「いや、嘘だろ。今の回し蹴りエグかったっすよ」
少女と一緒にやって来た少年の一人が苦笑いしながらツッコミを入れた。
もう一度否定しようとすると「あんた、可愛い顔してなかなかやりますね」と彼が呟いた。
『見た目通りの大人しい子なら好きになってたかも』
トラウマが蘇る。咄嗟に、私はその場から逃げ出した。名も知らぬ少女達と二度と会わないことを願いながら。
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