第19話 芽久の得意な分野

『それはそれは。本当に良かったね。お兄ちゃん』


「いや.....良かったというか疲れた」


『もー。そんな事を言っちゃダメだよ。お兄ちゃん。山口さんは楽しんでいたんでしょ?』


「まあ確かにな」


結婚式の様な撮影会の後。

さっきの和也と話していたベンチまで戻って来た。

そして俺は双葉からの電話を受けていた。


横では山口が嬉しそうに写真とぬいぐるみに触れ合っている。

まるで無邪気な幼子の様に、だ。

それを見てから双葉に言葉を発する。


『でもお兄ちゃんらしいね。そう言いながらも最後まで付き合うの』


「.....いやいや。あの状況では仕方が.....」


『いいや。普通だったら逃げると思うよ?嫌な事が嫌な人はね。最低な人は』


「.....そんなもんかね」


『.....そうだよ。きっと。.....私のお姉ちゃんも生きていたらきっと凄いって褒めるよ』


ニコニコしながらの感じの電話。

一葉か。

俺は少しだけ複雑に思いながら.....双葉の話を思い出す。

そして唇を噛んでから双葉に話した。


「双葉。お前は自分の過去をどう思う?」


『.....それはどういう意味?.....向き合った方が良いとかの関係?』


「.....そうだな。.....俺は過去が複雑だ。お前も過去は複雑だ。.....だけどいつかは歩み出さないといけないのかな」


『.....お兄ちゃんがそう思うなら進むべきだよ。今はまだと思うなら止まるべきだと思う。だけど.....もう良いんじゃないかな。お兄ちゃん。.....貴方の過去は確かに複雑だけど』


「.....そうか」


そんな話をしていると山口が俺に向いてきた。

そして、私も義妹さんと話してみたいんですけど.....、と笑みを浮かべる。

チラチラと見てきながら、だ。


俺はその姿を見ながら、双葉。山口が話したいって、と言う。

すると双葉は、大歓迎だよ、と笑顔を浮かべる様に話した。

俺はスマホをスピーカーにする。


『もしもし。山口さんですか』


「はい。聞こえます。.....お久しぶりです」


『.....そうですね。お久しぶりです。アホ兄がお世話になっています』


「冗談はよせ。双葉」


『アハハ』


それから双葉は少しだけ笑いながら.....山口に話し掛ける様にする。

山口さん。まあ冗談は抜きで何時も兄がお世話になっています、と言った。

うん、と答える山口を見つつ俺は苦笑する。

そして双葉の声が途切れてから。

3秒後ぐらいにまた声が聞こえた。


『山口さん。その。兄は.....大丈夫そうですか』


「.....そうだね。今は.....至って普通だよ」


「.....」


『.....良かったです。.....楽しんでね。お兄ちゃん。.....私も行きたかったけど.....部活有るしねぇ。全く』


「.....お前は忙しいしな」


それそれ、と双葉は苦笑する様な声を発する。

俺はそんな声に俺達も顔を見合わせてから笑みを浮かべる。

そうしてから、双葉。また電話してくれ、と伝える。

双葉は、そうだね、と笑顔で答える。


『.....それはそうとお兄ちゃん。頭の中で悩んでない?』


「.....何をだ?」


『.....全部だよ。.....だってお兄ちゃん過去の話を突然したから』


「.....そうだな。.....大丈夫じゃないって言ったら大丈夫じゃないかもしれないが。.....俺はもう大丈夫だ。.....みんな居るしな」


『.....そっか。お兄ちゃんは仲間に囲まれているしね』


「.....そうだ。お前も居るしな。昔と違うよな」


そうだよ、と言ってくる双葉。

俺はその言葉に、ああ、と答える。

双葉は、でもゆっくりで良いからね。お兄ちゃん。私は貴方を支える為に側に居るから、と言ってきた。

俺は目を閉じて開く。


「有難う。双葉。.....本当にお前には世話になってるな」


『.....お兄ちゃんの義妹ですから』


「.....良い義妹さんを持っていて羨ましいね。内藤君」


「.....そうだな。俺は幸せ者だよ」


そして俺は、じゃあまた後でな、と双葉との電話を切った。

双葉は、うん。待ってるねぇ、と切る。

それから一息置いてから俺は山口を見る。

これからどうしようか、と言うと山口は、旅館にぬいぐるみ置いてくるね、と笑みを浮かべた。

写真も大切だから、とも、だ。


「.....そうか。じゃあ待っとこうか?」


「でも時間掛かるから.....大丈夫。また連絡する」


「.....そうか。.....分かった」


「うん。じゃあ」


本当に有難う。内藤君。

と満面の笑顔で手を振りながら去って行く山口。

俺はその姿を手を振って見送ってから.....目の前の小物屋を見る。


そこに.....門司が居た。

門司は顎に手を添えて何か悩んでいる様に見える。

俺は?を浮かべつつ店内に入った。


「.....門司?どうした」


「ふあ!?かっちゃん!?」


「.....いや。何か悩んでいる様子だったからよ」


「.....うん。.....えっとね。.....山口さんと仲良くしたいと思ったから。.....反省も兼ねてビーズの何かを作ろうと思って」


門司はモジモジ.....いや。

ギャグじゃなくて本当にそうしているから。

モジモジしつつ.....ビーズを選ぶ。

そしてキラキラと光りながらも形の違うビーズを購入の為の器に入れる。

驚いたな、と思う。


「.....お前ってこういうの得意なの?」


「.....やり方はガサツだけどね。でも.....得意。小さな作業がね」


「.....そうなのか。.....それは良い趣味だな」


「.....有難う。かっちゃん。そう言ってくれて嬉しい」


俺は顎を撫でる様にしながら。

目の前の色とりどりのビーズやら何やらを見る。

そうしていると、かっちゃんにも作ってあげる、と門司は笑みを浮かべた。

俺は、それは嬉しいが.....大変じゃないか?、と聞く。


「.....大丈夫。かっちゃんの為だから。心から大好きなかっちゃんにね」


「.....他に客が居るからな.....お前」


「大丈夫だよ。かっちゃんと私なら」


「いやいや。俺はそういう訳にはいかない」


そうしていると店主?らしき中年の女性が寄って来た。

まあまあ、と言いながら、だ。

喧嘩しているのと誤解したのだろう。

苦笑しながら.....丸眼鏡を上げるご婦人。


「夫婦喧嘩はいけませんよ」


「.....いや。夫婦じゃないっすよ。そんな年齢でも無い」


「あら?そうなの?.....まあまあ。彼女さんはとても可愛いわね」


「彼女でも.....」


と言っていると門司は俺の腕に自らの腕を絡ませた。

それから笑顔で答える。

私達。仲が良いでしょ?、的な感じで赤くなりながらだ。

誤解されるってばよ!

俺は顔を怖いものでも見た様に引き攣らせながら門司に突っ込む。


「まあまあ!若いって良いわね〜」


「ですね」


「.....まあ.....そうですね」


俺は苦笑いでご婦人に答える。

するとご婦人は、そうだわ!、と手を叩く。

それから、私のビーズ絵の画廊に寄って行きませんか?、と言ってくる。

え?、と思いながら俺達は目を丸くする。


「特に彼氏さんの.....目を見ていると是非ともに見てほしい感じがしますから」


「.....だそうだがどうする?門司」


「.....うん。かっちゃんが行くなら行くよ?」


門司は笑みを浮かべて俺に向く。

可愛らしい笑みだ。

その事に俺はご婦人に答える。

そして俺達は.....持っているビーズの商品を精算してからだが。

自らの作ったビーズ絵の有るというご婦人の画廊に向かう事になった。

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