第13話 歪になる世界に差し込む暖かな手

俺を好きな女の子が居る。

その子達は皆、俺に好きだと言った。

そんなに良い奴じゃないのにな俺。


考えながら過去の自分を今の自分に重ね合わせる。

そして吐き気に襲われトイレに駆け込む。

個室に入ってから胃の内容物を吐いた。

それから耳を研ぎ澄ます。


「.....」


参ったもんだな。

俺は便器の底をジッと見る。

やはり俺は.....誰とも付き合えない運命の様だ。


もう良いじゃないかな、と双葉は言うが。

佐藤は、大丈夫だよ、と言うが。

俺は、やっぱり駄目だな、と思う。

こんなにボロボロの身では付き合う資格など.....無い。


まるで発泡スチロールだなこの身は。

擦れば削れる様に.....ボロボロなのだ。

完璧な人間じゃない。

そう思いながら天井を見上げる。

すると。


「かーくん」


「.....何故お前が居る。佐藤」


「.....大丈夫かなって思って」


「.....ここは男子便所だぞ。お前」


「.....そんな事気にしない。.....開けてくれない?」


「.....」


俺は静かに流してから戸を開ける。

目の前の佐藤が俺をジッと見ていた。

心配そうな顔で、だ。

だけど真剣な顔で、である。

無理してるよね、と聞いてきた。


「.....別に。.....俺は何時もこんな感じだから」


「.....心配だよ。私」


「.....心配の必要は無いぞ。佐藤。有難うな」


「.....でも心配。.....吐いてたよね」


「.....聞いていたのかお前は。汚らしいものを」


私は.....ずっと聞いてた。

だって貴方が心配だから。

心から心配だから、と涙目になる。


俺はその姿に目線だけ動かす。

まるでぎこちないブリキの目みたいに。

そして顔を上げてくる佐藤。


「.....かーくん。何があったの?私が.....門司さんが居ない間」


「.....言えない。御免な。.....これは.....俺の問題だから」


「.....そうなんだね。.....分かった。じゃあ聞かない」


「.....そうしてほしい。御免な」


それから俺は唇を噛む。

すると、だけど、と佐藤が向いてくる。

そして俺を見つめてくる。

私に話せる様になったら話して、と言ってくる。

俺はその言葉に、そうだな、とだけ答える。


「.....今は無理でも.....お願い」


「.....そうだな」


「私はかーくんが好きだから。だから.....お願いね」


「.....ああ」


そうしていると。

男子の声がしてきた。

俺は慌てて佐藤をそのまま個室に引き込み。


それから佐藤の口を塞ぐ。

何てこった、と思いながら、だ。

美少女と2人で男子便所に居るのはマズイかとやってしまった。


「むぐ.....」


「佐藤。静かにしてくれ」


頷く佐藤。

それから俺を見てくる。

そして佐藤は俺の下を見つめた。


ニヤッとする感じを見せる。

そして擦ってきた。

何かチャンスと捉えた様に.....!?

ちょ。ちょ。

何をやっているんだよ!!!!?


「ウフフ.....フフ」


「アホ!やめろ馬鹿!」


俺は愕然としながら青ざめて暴れる。

アホかコイツは!

マジに擦ってきている。

この変態.....!変態め.....!

男子よ早く消えろ!


「止めろ佐藤.....!頼む!」


「.....」


首を振りながら俺の下半身を見る佐藤。

そして膝を曲げる。

まさかコイツ.....!、と思いながら俺のズボンに手を掛けた。

すると男子達がそのタイミングで去る。

俺は慌てて鍵を外した。


「何やってんだ馬鹿!アホ!」


「だって.....その。口を塞がれてチャンスかと思って.....」


「そういう問題か!お前.....!」


「.....折角エッチな事が出来ると思ったのに♪」


「.....」


佐藤はニヤニヤしながら砂糖を吐かせる様な事をする。

油断も隙も無い。

非常に困ったもんだ。


考えながら俺は盛大に溜息を吐きながら佐藤を見る。

佐藤はニヤニヤしながら俺を見ていたが。

切り返す様に俺に柔和になる。


「.....でも話を戻すけど.....何かあったら話してね」


「.....そうだな。.....まあ今の状態では話せるのは遠かったが」


「そうなの?良いじゃん。気持ち良くなる為だしね.....♪」


「お前.....」


俺を好きと言ってから見境が無くなっている。

困るんだが.....こういうのは。

俺は冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべる。

佐藤は手をワキワキさせながら俺を見てくる。

ニヤッとしながら、だ。


「.....私は何時でも狙っているからね。アハハ」


「.....あのな.....」


「.....私はエッチな事もされるのも君だけ。だからね」


「.....ハァ.....」


いや本当に。

俺は最近これしか言ってないけど困るんだが。

割と本気で、だ。


思いつつ.....佐藤を見てからそのままトイレから出た。

そして教室に戻る。

それから和也のドロップキックが飛んでくる。

俺は打ち当たってそのまま撃沈した。

このクソ馬鹿が!!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る