第12話 かーくん

つまり佐藤は。

男の演技をしていた、という事になっている。

俺は愕然としながらその事実を受け止めつつ.....翌朝起きた。

そして目の前に.....やはり現れた。


佐藤が、だ。

起こしに来たのだ俺を。

何の変哲もない感じで、だ。


「おはよう。内藤君」


「.....ああ。おはよう。.....佐藤」


「どうしたの?そんなに衝撃的な顔をして。まるでビックリ箱でも見た感じだね。顔が」


「.....いや。何でもない」


佐藤。

つまり彼女には聞きたい事が山ほどある。

だけど.....それを聞いて良いものか悩んでいる。

簡単に言ってしまうと.....これを聞く事によって今が変わってしまうのではないか、と思うのだ。

佐藤の気持ちも汲まなくてはいけないだろう。


「何でもない。.....有難うな。佐藤。心配してくれて」


「そう?だったら良いけど.....何かあったら言ってね」


「.....」


佐藤は笑顔で俺を見てくる。

太陽の輝きの様な笑顔で、だ。

佐藤と俺と門司。

考えながら俺は顎に手を添える。


そして考え込む。

どっちが嘘を.....吐いている、ではない。

つまりどっちも居たのか当時は。

そう思いながら立ち上がると。

何か部屋から無くなっている事に気が付いた。


「.....オイ。佐藤」


「.....何でしょう?」


「俺のパンツはどうした。下着は」


「.....私知らないもん。今度は」


「.....それは無いぞ。俺は昨日用意した。確実に。だから無くなったらお前のせいとしか思えない」


「わ、私はそんなに変態!?」


プンスカ文句を垂れる佐藤。

頷く俺。

それから否定はしない、と言葉を発した。


だって変態だろうお前は、と考えながら佐藤を見る。

佐藤は真っ赤になりながら。

丁度、耳まで真っ赤にしながら俺を見てくる。

そして溜息を吐いた。


「私だけど。盗んだの」


「やっぱりな。返せ」


「.....でもワザとじゃ無いから!今度は。落ちたものを拾って戻そうとした!」


「なん.....言い訳するなよ!?」


この期に及んで.....。

俺は額に手を添えながら盛大に溜息を吐く。

全くコイツは.....。

考えながら俺は見る。

佐藤は俺を見ながら、フフーン、と胸を張る。


「私偉い?落ちたものを、汚いものを戻そうとしたのだから」


「いや。全く。お前には前科があるんだからな」


「もー!!!!!」


「もー、じゃない。前科は見逃さんぞ」


「そういう所がアレだよね!かーくんは!!!!!」


「.....え?今何つった?」


そんな事を言ってから。

ハッとしてから口を思いっきり噤む佐藤。

かーくん?


俺は目を丸くしながら佐藤を見る。

佐藤は静かに、何でもない、と踵を返して去って行った。

何だ今のは.....。

親しみを込めてなのか?



「佐藤。さっきの、かーくん、ってのは.....」


「見て見て。今日も良い天気だよ!アハハ」


朝食をとっている佐藤も手伝ったという食事の時もはぐらかされた。

それから今に至っているが。

佐藤は相変わらず俺の話に耳を傾けない。


俺は顎に手を添えながら佐藤を見る。

やはりさっきのは気の所為か?

しかし.....昔、仲良かった友人も確か、かーくん、と言っていた様な.....。

俺は佐藤に付いて行きながらの考えていると。


何故か近所の公園に着いた。

学校じゃ無い場所だ。

どうなっている?!

学校じゃ無いのか!?


周りを見ていなかった俺も悪いとは思うが!

何故、公園なのだ。

困惑していると佐藤が目の前を見てから俺を見てきた。


「ねえ。.....本当に知りたい?さっきの言葉」


「.....え?.....あ、ああ」


「.....さっきのかーくんは.....友人として君を呼んでいた言葉だよ」


「.....じゃあまさか.....お前は長島なのか!?」


「.....『そうだな。かーくん。久々だな』」


佐藤に面影が重なる。

俺は愕然としながら佐藤を見る。

そして涙が浮かんできた。


何でそれを隠すんだよ。

お前が.....友人だとは思わなかったんだが。

完全に騙された。

涙が止まらないのだが。


「え、え!?泣く必要ある!?」


「有るに決まっているだろ。懐かしいんだよ俺は。門司にも会えてお前にも会えて。.....こんなに嬉しい日は無い」


「.....かーくん.....」


「正直。俺はお前が長島だとは思わなかった。.....嬉しかった。心から」


「.....そう言われると照れるかも。アハハ.....アハハ.....」


俺は幸せ者だな。

考えながら長島もとい佐藤を見る。

しかしそれを考えると.....何故だ。

何故.....佐藤は俺に嘘を吐いた?

謎が多過ぎる。

まるでクエスチョンマークの箱を謎めいて開ける様な感覚だ。


「何故.....お前は俺に接触しなかった。どうなっている」


「.....私が君に接触しなかったんじゃないよ。君が私に接触しなかったから.....だからもう良いかなって思ったの。.....君はもう幸せそうだったしね。手助けは必要無いかなって思ったから」


「.....そんな理由でか.....」


「そうだよ。.....それから私が男装してた理由だけど.....男勝りじゃないといけない家庭だったからね。だから男装した。.....でもずっと君に言えなかった。入学式の時に君を見つけて.....心から嬉しかった。.....でも君は山口さんに支えられていたから。だから.....ね」


「.....でもそれでも俺が好きであんな変態な事をしていたと」


「.....そうだね。.....私はかーくんの匂いが好きだから」


悶える佐藤。

それは良い事を言っているかもしれないが他の人が聞いたらヤバいだろ。

俺は考えながらそれだけは苦笑いを浮かべた。

それから.....佐藤を見る。

すると佐藤は俺を見てきた。


「.....でも我慢出来なくなった。門司さんや山口さんが現れてから。.....やっぱり君が好きだって君に接触し始めたの」


「.....恋は既に芽生えていたって事か」


「.....そうだね。.....君が好きだよ。.....かーくん」


「.....全く.....。お前の演技は凄まじかったぞ。門司より」


「.....アハハ。ゴメンね。でも.....私は本当に君に接触する気は無く卒業するつもりだったからね」


山口さんに取られるのは嫌だったけど.....でも。

私はそれでも良いかなって思っていた。

でも.....私はやっぱりかーくんが好き。

と笑顔を浮かべながらブランコに乗る佐藤。

俺はその姿を見ながら地平線の彼方を見つめる様な姿を見せる。


「.....私。決意したの」


「.....何をだ」


「.....私は負けない。.....きっとかーくんのセックス相手になる」


「.....良い加減にしろ.....この変態」


「アハハ。それは冗談だけど.....でもお嫁さんになりたい。かーくんの」


そして佐藤はブランコを手放して飛んだ。

それから土の地面に着地する。

何かの境界線を越える様な。

そんな姿だった。

俺は見惚れる様な感じでそのまま、そうか、と答える。


「.....だからね。かーくん。私に振り向いてね。待ってる」


「.....そうだな」


「かーくんはヒーローだから立ち直れると思うから」


「.....そんな大きな存在じゃないけどな。俺は」


俺は苦笑いで佐藤を見る。

佐藤は俺を見てくる。

そうだ俺はヒーローなんかじゃない。

そこら辺の根性無しと同じだよ。


君に反発した様な。

あの頃と何も変わってない様な.....。

そんな人間のままだから。

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