衝撃の事実

第11話 芽久と一馬を欺いた蕾の演技

門司か佐藤。

俺はどっちが幼馴染か分からない。

何故分からないかというと。


彼女はボーイッシュだったから。

だから俺は記憶に無い。

だけどそんな彼女からは最後にこう言われた。


「私、実は女の子なの」


と。

でも正体を明かす前に。

その翌日に俺の前から両親に連れ去られる様に去って行った。

彼女が俺を好きだったのかそれは分からない。

そして何の音沙汰も無く今に至っている。


10年近く経った今に、だ。

今でも彼女の事は忘れられない。

格好良かったから、だ。


本当に男みたいな格好をしていた。

その理由は.....分からない。

だが.....きっと理由はあったのだろうけど。


門司に聞けば早いだろうけど。

でも門司も佐藤も同じ回答をするだろう。

肝心の決定の部分が無い。

困ったものだな、と思える。

何も特徴が無かったしな.....ボーイッシュな点以外。


「お兄ちゃん」


「.....どうした。双葉」


「佐藤さんと門司さん。または山口さん。どの娘が好きなの」


「.....は!?」


「いやだって。お兄ちゃんずっと悩んでいるし」


勘弁してくれよ。

俺はビックリしながらリビングで宿題をしていたが。

握力でシャー芯が折れて飛んだ。


本気でビックリしたのだが。

考えながら双葉を見る。

ニヤニヤしながら俺を見ていた。


「お兄ちゃんはアホだから機会を逃しそう」


「.....お前は.....良い加減にしろ。揶揄うな」


「だって折角のチャンスだよ?お兄ちゃん。この機会を逃すと勿体無いよ?恋は突然で終わりも突然だから」


「勿体無いか?俺はそうは思わない」


「ハァ.....お兄ちゃん。乙女心を舐めてるね?」


「舐めてないからな」


舐めてないって言っても舐めてるよね?

と俺をジト目でまるで射抜く様に見てくる双葉。

違うわ、と思いながら双葉を見る。


双葉は溜息を吐きながら俺の横に腰掛ける。

お兄ちゃん。もう良いんじゃない?自分に素直になっても。

と笑顔を浮かべてくる。


「.....まあな」


「.....うん。絶対に勿体無いよ。.....お兄ちゃんは損してる」


「.....素直になる度に俺は鼓動が激しくなるからな。.....恋は苦手だ」


「.....そうなんだね」


「ああ。俺は苦手だよ。恋は」


心臓の鼓動、発汗、熱。

そんな感じで.....嫌気が差してくる。

だから俺は.....恋は嫌いなのだ。


考えながら俺はシャーペンを静かに置く。

それから前を見据えた。

そして双葉を見る。


「お前が彼女ならな。何とかなったな」


「.....もー。冗談は止めて」


「冗談じゃ無いけどな。.....でもそんな感じなんだよ。割と本当に」


「.....そうなんだ」


頬杖を膝の上でつきながら俺を柔和に見てくる双葉。

八重歯を見せながら。

俺はその姿を見ながら.....笑みを浮かべる。


そして消しゴムを転がす。

まるで悩む気持ちを吐き出す様な。

消しゴムに、だ。


「俺は身近な人が良いんだろうな。きっと」


「.....」


「.....だからお前が彼女だったら良かった」


「.....駄目だよ。お兄ちゃん。.....私は疫病神だから」


「.....お前も俺と同じじゃないか。全く」


「あはは。そう言えばそうかもね」


髪をかき上げながらそう反応する双葉。

そして悲しげな顔をする。

俺は消しゴムを倒してからそんな背中を摩った。

それから笑みを浮かべる。


「.....笑う事もお前と家族にしかほぼ無いしな」


「.....まあお兄ちゃんは卑屈だし」


「.....オイオイ」


「だってそうでしょ?アハハ」


「いやー。参る」


「うんうん。何時ものお兄ちゃんだね。それこそ」


そして双葉は立ち上がる。

私。洗濯物を入れてくるね、と言いながら、だ。

俺はその姿を見送ってから顎を撫でる。

それから目の前を見つめる。

どうするかな、と思いながら。


プルルルル


「.....?.....門司?」


スマホが鳴った。

門司から、である。

この前アドレスを交換したのだが。

初めての電話である。

俺は画面を操作してから電話に出る。


「もしもし?」


『.....もしもし。門司です』


「.....どうした?」


『.....えっと。その。山口さん.....大丈夫だった?』


「.....心配してくれているんだな。.....大丈夫だ。.....お前が悪い事を反省すれば大丈夫だよ。.....やり過ぎは自覚してくれ」


『.....うん。.....かっちゃんゴメン。やり過ぎた』


それから数秒空いた。

俺は言葉を待ちながら時計を見て飲み物を飲む。

するとまた声がした。

私ね。かっちゃんが欲しいからやり過ぎたね、と言う。

かっちゃんを愛しているから、と。


『.....馬鹿だったね』


「お前が俺を好いているのは有難いがな。だけどやり過ぎは良くないし腹立たしいからな。反省してくれ」


『うん。嫌われたく無いしね。みんなに』


「.....その意気だ。頑張ってな。俺も応援するし手伝う。お前が仲良くなれる様に」


『.....かっちゃん。有難う』


門司は照れ笑いの様な感じで言葉を発する。

俺はその言葉に、門司、嫁い言葉が出てしまった。

門司は、何?かっちゃん、と聞いてくる。

良いのだろうかこんな事を聞いて。

心の中で蟠りがあるが。


「.....お前さ。恋って何だと思う?」


『.....それは恋が何だって話?』


「.....ああ。俺は恋が出来ないだろ。だから人の恋心を参考にしたい」


『.....簡単だよ。.....私は貴方が魅力的だったからそれだけだよ。.....私は.....かっちゃんだったんだよ。恋の相手が。簡単に言い表すとかっちゃんが格好良かったんだ』


「.....」


『かっちゃんは私のヒーローだから』


思い出した。

確か.....ボーイッシュだった幼馴染の額には傷が有った筈だ。

何の傷かと言えば簡単だ。

縫った傷であるが.....俺のせいだ。

その傷を負わせたのは、だ。


簡単に言えばその傷は遊んでいた時に転んだ傷だ。

それで見分けられないのだろうか。

ハッとして考えながら、門司。お前の額に傷在るか?、と聞く。

すると門司は、思い出したの?過去を、と聞いてくる。


「10年前の記憶だったけど思い出した。傷が有るよな?」


『うん。転けた時の傷だね。有るよ。髪の毛が生えている所に伸びて』


「.....それでお前が幼馴染かもしれないって分かるかもしれないんだが.....」


『.....それは無理だよ。山口さんの件もあったから.....信頼の為にもう隠さないつもりで話すね』


「え?は?何を.....え?」


『.....さっき佐藤さんと話したの。私』


俺は驚愕して、何?、と話す。

そして文字は語り出した。

実はね。かっちゃんの男友達は佐藤さんかもしれないよ、と。

俺は愕然とした.....え!?

そんな馬鹿な!?


「あり得ない!俺の記憶は男友達と幼馴染の2人しか無いぞ!」


『.....うん。でもね。ボーイッシュな男の子は私だけど.....佐藤さんも当時居たんだと思うよその場に。もう一人の男の子がそうじゃないのかな』


「.....どうなって.....いるんだ.....そんな馬鹿な.....馬鹿な?!」


俺はヨロヨロと足を崩しながら。

椅子に腰掛ける。

時間が止まった気がした。

いや。

門司の告白が衝撃だけどその後も全部が衝撃的なのだが。


『.....私は詳しい事はわからないよ。それに勘だけどね。.....その男の子がもしかしたら佐藤さんって事は無いのかな。だったら幼馴染のフリをするのも分かるけど』


「.....いや。無い。.....絶対に無い筈だ。だけど.....え?」


『.....かっちゃん。子供って顔立ち幼いしそんな感じだから。昔そんな事無かった?佐藤さんとどう関わっていたかな』


「.....」


その男友達は確か。

長島実(ながしまみのる)と名乗っていた。

だから佐藤じゃない。

絶対に違うと思うのだが。


だけど.....確かに.....俺と一緒にお風呂に入ったりとかしようとしたら嫌がっていた。

額の傷の為にと言っていたから。

そして病気も抱えているからって。


それが女の子である証を隠すものなら?

納得がいくのだが。

でもアイツは男子トイレを普段、使ったりしていた。

完全な男の筈だが。


つまり門司.....とはえらい違いがある。

だから有り得ない。

そんな馬鹿な.....!?

完全に騙された。


「そんなに触れ合う機会は無かったんだが.....」


『かっちゃん。その子だと思う。.....佐藤さんは。.....きっと何か隠しているんじゃ無いかな佐藤さんが』


「.....隠している!?.....佐藤が当時から居た.....!?どう.....なっている」


『全部が演技だとしたら完璧だよね。.....私も騙されたから』


「.....」


俺は額に手を添える。

そして俯く。

謎が多過ぎて頭が混乱してくるんだが.....。

どうなっている。


先ず何故、男装した。

そして何故今このタイミングで俺にアピールを?

それから何故.....幼馴染だと?

それに引っ越した時に何故言わなかった。


全てにおいて完全に騙された。

男子が.....まさか。

論外だったのだが。


考えながら.....俺は顎に手を添える。

そして冷や汗を頬に流した。

佐藤に迫る理由が.....出来た気がする。

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