第5話 懐かしい香り

だからと言って俺の服を嗅いで良い訳が無い。

この先に不安を覚えながら俺は佐藤を見る。

佐藤は嬉しそうにエロゲを買っている。


女子がエロゲ.....。

世界は分からないものだな。

思っていると清算を終えて佐藤はトイレに行った。

その間に俺に向いてくる真理さん。

ニヤッとする。


「ねえ。一馬君」


「.....何でしょうか」


「.....何時か君達は子供を作るの?」


「最低だな!」


今はその年齢じゃ無いだろ!

アッハッハ!冗談だよ、と真理さん。

俺は頭をボリボリ掻きながら、全く、と思いつつ真理さんを見る。

だけど次に真理さんは真剣な顔で俺を見てくる。

次には柔和な顔で、だ。


「私の言葉。.....もし良かったら受け止めてね。.....あの子は心配だから」


「.....」


「.....一人は可哀想だから」


「.....検討します」


でも正直。

俺は佐藤を好きな感じには見れないな。

あくまで、友達、としてなら見れるが、だ。


今は無理だ。

それに俺は.....誰とも付き合う気も無いしな。

考えているとゲーム屋の自動ドアが開いた。

それから、あれ?、と声がしてくる。


「.....き、奇遇だね。.....内藤君」


「.....山口?お前もゲームするのか?」


「う、うん。昔から好きだよ。わ、私も」


嬉しそうに山口は俺を見てくる。

はにかむ感じで、だ。

これに対して真理さんが、おやおや?浮気?、とニヤニヤする。

俺は、いやいや、とツッコミを入れる。

山口は顔を少しだけ顰める。


「.....仲が良いんだね」


「出会ったばかりだけど.....一応はな」


「.....そうなんだ。フーン.....」


「.....何だよ。山口?」


別に.....何でも無いよ。

と唇を尖らせる。

すると佐藤が戻って来た。


山口を見てから見開いて、山口さん?、と見る。

そんな山口は少しだけショックを受けた様な顔をする。

まるでこの世の終わりに近い様な。


「.....内藤君。.....もしかしてデート?」


「.....違う。何を誤解している。お前も」


「.....!」


佐藤がピーンと何かを閃いた!、的な感じで佐藤はニヤッとする。

ドラク〇の選択肢の様に、だ。

それから俺の腕を恋人繋ぎの様にする。


そして、うん。デート。そうだよ?、とニコニコする佐藤。

何を言っているんだこのボケナス?

俺は驚きながら佐藤を見る。


「.....そ、そうなんだね。うん.....そうなんだ」


「山口。完璧な誤解だからな。.....取り合えず落ち着け」


「わ、私はおめでとうって思うよ?良かったね。内藤君」


「おめでとうもクソも無い。付き合ってない」


「うん。いや。そういう冗談はやめた方が良いよ。内藤君」


誤解に誤解が積み重なる。

困ったなこれ。

思いながら救済を求める様に真理さんを見る。


真理さんは何とも言えない感じで逃げる。

オイオイ!

こんな肝心な時に逃げるな!

まるで唇を吹く様に!


「あのな。完全な誤解だ。山口。俺は付き合ってない。そもそも俺は誰とも付き合わないつもりだから」


「あれ?夜にあんな事もしたのに~?」


この場になっても揶揄う様に俺を見てくる佐藤。

何だか段々とイライラしてきた。

こういう冗談は止めてほしい。

考えながら俺は佐藤を睨む。

佐藤は何かを察した様に離れた。


「山口さん。冗談だからね」


「.....え?.....ええ?冗談なの?」


「そ、そう」


佐藤は俺を申し訳なさそうにチラチラ見てくる。

俺はこういう冗談が嫌いなのだ。

だから許せない。


だから俺は睨んだのだ。

佐藤を、である。

人を嘲笑う事など言語道断。

思いつつ俺は佐藤の手を振り払った。


「.....山口。行こう」


「え、でも.....佐藤さんは.....」


「良いんだ。あんな冗談をやる奴は嫌いだ」


「えっと.....内藤君!冗談だよ!」


「.....冗談でもこういう冗談は嫌いだ」


そしてそのまま俺はその場を後にした。

丁度、俺の鞄の中に全て入っていたのでこのまま帰れた。

俺はそのまま家に帰ってから。


ショックを受けていた佐藤の顔を思い出す。

それから溜息を吐いた。

何であんな事を。

本当にちょっとしたジョークなのかも知れないが。


「構わない。勉強しよう」


俺は考えながら勉強を始めた。

許せないものは忘れよう。

考えていると.....インターフォンが鳴った。

この家には俺しか居ない。

今現在、だ。


「.....何だ?」


思ってから2階から降りてから玄関を開ける。

宅配便か?、と思ったのだが。

門の先、そこに.....少女が立っていた。

鞄を持ったセーラー服の、だ。


ポニテの爽やかな少女。

見た事も無い少女である。

誰だコイツは。

かなりの美少女だが。

また美少女か。


「.....どちら様かな」


「.....私、門脇高校の門司芽久(もじめぐ)って言います。.....その。.....初めまして。内藤一馬君」


「.....何故俺の名前を知っている?」


「.....それは君が好きだからだよ。.....私、幼い頃から君を知っているから。昔の住所を辿ったんだけどそれでも行きついたから良かったって思った.....」


次の瞬間、その少女は一歩を踏み出した。

それから俺に抱き着いてそして。

俺に笑顔を見せる。

やっと会えた、と言いながら、だ。


「ちょ、ちょっと待て。俺はお前の事.....知らないんだが!」


「.....だろうと思うけど私は知っている。.....幼稚園の頃のヒーローだからね」


「なん.....そんな馬鹿な!?」


「.....私、貴方の事が好きです。内藤一馬君」


「いやいや!いきなりそんな事言われても!」


突然でも愛は深いから、と笑顔で言ってくる少女。

そんな。

というか何だこの良い香りは.....。

ん?しかし何か懐かしい.....等と思っている場合か。


そもそも俺は、誰とも恋をしない、と言ったばかりなのだが。

何故こんな美少女に絡まれているのだ!?

いい加減にしろ、って感じだが。

勘弁してくれ。


「門司だっけ?!離れてくれ!俺はそんな気分じゃない!」


「久々に出会えたから暫くこうしたいよ。.....かっちゃん」


「.....かっちゃん.....か.....かっちゃんって!?」


「.....私はかっちゃんが昔から好きだよ。ね?かっちゃん」


ギュッと俺を離さない門司。

その.....幼い頃のあのボーイッシュな女の子の記憶が蘇ろうとしている。

かっちゃん、という言葉に反応しながら、だ。


それは昔の俺のあだ名だ。

どうなって.....いるんだ!?

あの女の子なのか!?

門司が、か!?

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