第42話:エクセター侯爵家凋落

皇紀2220年・王歴224年・早春・ロスリン城

 

 俺は満十一歳、当年とって十二歳になったが、相変わらず周囲は敵ばかりだ。

 領民は二十万人で、普通なら外に出せる兵力は五千兵くらいだろう。

 だが俺の魔力による生産力の拡大と、戦って得た捕虜を自軍に組み込んだ事で、四万兵もの、分不相応な大軍を養っている。

 無駄飯を食わせる気はないので、屯田兵のように耕作もさせているが、矢張り兵士は領地を、いや、領民を護るために存在するのだ。


「侯爵殿下、レイ地方のアザエル教団が侵攻準備を整えております」


 アイザックが周囲の状況を報告しに来てくれたが、順調だった。

 前年に仕掛けておいた謀略が上手くいっているようだ。

 俺に大負けして、戦力の七割を失ったエクセター侯爵家は防戦一方だ。

 俺には領民一万人の直轄領を奪われて、属臣だったトリムレストン子爵家には背かれたうえに、少なくない家臣に見限られている。


 エクセター侯爵家の家臣を寝返らせたトリムレストン子爵家は、全軍を率いてエクセター侯爵家の本城に攻め寄せた。

 根こそぎ動員を行ったエクセター侯爵家だが、集められた兵士は一万兵だった。

 影響力のあった他の地方の騎士や貴族が、エクセター侯爵家を見限った結果だ。

 一方のトリムレストン子爵家の動員した兵力も一万人だった。


 野戦ならばいいが、同数の兵力で城攻めしても城を落とす事はできない。

 そもそもトリムレストン子爵も、一度でエクセター侯爵家を滅ぼせるとは思っていないはずで、今回の侵攻はエクセター侯爵家に力の差を見せつけるためのはず。

 何度も城を囲まれてしまったら、エクセター侯爵家の威信は地に落ちる。

 櫛の歯が欠けるように属臣や家臣に見放されるだろう。


 俺が普通の貴族なら、漁夫の利を狙ってトリムレストン子爵領かエクセター侯爵領に攻め込むだろうが、そんな事をしたら三つ巴の戦いになってしまう。

 戦力を消耗してしまったら、三家ともカンリフ騎士家に滅ぼされる事になる。

 だからトリムレストン子爵家とエクセター侯爵家が決定的に力を失わないように、俺が適当な牽制を行うのだ。

 早い話が、トリムレストン子爵家との境目に大軍を駐屯させる。


「アザエル教団とゴーマンストン子爵家との戦闘が始まったら直ぐに知らせてくれ」


「承りました」


「それで、カンリフ騎士家はどのように動いているのだ」


「はい、エクセター侯爵家がロロ地方に持っていた影響力を全て奪いました」


「だがロロ地方には数多くの教会があるよな。

 この国でベリアル教団と双璧の権威と戦力を持つ、カスピエル教団がロロ地方で一番力を持っていたのではないか」


「はい、その通りでございます。

 エクセター侯爵家を離れた貴族士族も、カンリフ騎士家とカスピエル教団を天秤にかけて、少しでも有利な方に属そうとしております」


「だとすると、エクセター侯爵家が持っていた力が、そっくりそのままカンリフ騎士家に渡るわけではないのだな」


「はい、それと影衆のダエーワ一族が住むエリバンク地方ですが、エクセター侯爵家から離れたものの、カンリフ騎士家に臣従したわけではありません。

 指導者の指示にしたがって金で技を売っているようです。

 カンリフ騎士家に仕えたのではなく、カンリフ騎士家の依頼も受けるのです。

 金次第で全国どこの貴族士族に雇われる形にしました」


「だったらイシュタム衆がダエーワ衆を雇って使う事も可能なのか」


「残念ですが、ダエーワ衆は同じ影衆の下にはつきません」


「では俺が直接雇おう。

 イシュタム衆だけでは手の届かない、遠方の地を調べさせる」


「そのような事をする意味があるのですか」


「折角海のあるバーリー地方のクレイヴェン伯爵領を手に入れたのだ。

 海軍と交易艦隊を建造して、強力な戦力と莫大な利益を手に入れるのだ。

 それができれば、喰うに困って集まってきた民に仕事を与えることができる。

 だが確実に利益を得ようと思えば、遠方の地で何が求められているのかと、物の値段を知らなければいけない。

 そう言う事は、商いに力を入れているイシュタム衆も分かっているだろう」


「なるほど、確かにその通りでございますね。

 ではダエーワ衆に渡りをつけたいと思います」


「頼んだぞ」

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