第43話:王国貴族

皇紀2220年・王歴224年・早春・ロスリン城


「そうか、カンリフ騎士家が王国名誉公爵に叙爵されたか」


「はい、本人だけでなく、一族郎党にまで叙爵を要求したようです」


 王家と皇国貴族から情報を集めていたアイザックが報告してくれた。

 王を軍事力で威圧して直臣になろうとしていたのは分かっていた。

 だが流石に公爵を要求するとは思っていなかった。

 もしかしたら、王子を養嗣子に迎えるか、王女を後継者の正室に迎える気か。

 後継者はかなり優秀な漢で、皇国貴族にも評判がいいと伯父上達が言っていた。

 だからだろうが、父親とは別に、独自に王家子爵に叙爵されている。


 それにしても、そこまで要求したら馬鹿王が暴発するかもしれない。

 カンリフ公爵は馬鹿王を暴発させたいのかな。

 暴発させて徹底的に叩いたうえで、もう一度王都から追放する。

 だが今度はエクセター侯爵家が凋落しているから頼れない。

 潰そうとした我が家に逃げ込むことなどできない。

 両家があてにできない以上、教団が怖くて自由都市に逃げる事もできない。

 王都から遠く離れた場所に逃げたら、もう再起は不可能だろう。


「全て覚えているか、覚えているなら報告してくれ」


「ここに細かく書いた書きつけがございます」


 正確に報告するためだろうか、頭で覚えるだけでなく、覚書を持っていた。

 それによると、一族郎党の多くが一斉に叙爵されていた。


「カンリフ騎士家改めカンリフ名誉公爵家」

ルーカス:当主・カンリフ公爵:ブルース地方とネイピア地方とバルフォア地方

イーサン:長弟・クルシー侯爵:アースキン地方

メイソン:次弟・バトラー侯爵:マレー地方とマレー海軍を支配

ライリー:三弟・フリーク侯爵:マッカイ地方

ハリソン:四弟・戦死

ダニエル:嫡男・カンリフ子爵

タイラー:長老・ウォーターパーク宮中伯:


ジョゼフ:奉行・ハンターの兄・ライル伯爵・子爵:ロロ地方

ハンター:重臣・ジョゼフの弟・ラウス伯爵:フェアファクス地方

ジェイク:重臣・マシー男爵:


 三人の弟が地方の旗頭だと認められ、侯爵に叙爵されている。

 主だった一族衆で叙爵されたのは、宮中伯一人と男爵十七人だった。

 古参譜代衆で叙爵されたのは、子爵三人と男爵十一人だった。

 首都圏に侵攻してから召し抱えた優秀な新参者から叙爵されたのは、伯爵二人と男爵が三十二人もいた。

 その他の家臣もほとんどが王家直属の騎士に叙勲されていた。

 王国の政治機構はカンリフ公爵家の一族郎党に乗っ取られるな。


「ここまでやったら、いくらなんでも馬鹿王が暴発するだろう。

 地方の貴族士族にカンリフ家討伐の勅命を下しているのじゃないか」


「はい、仰る通りでございます、侯爵閣下。

 国王陛下は自ら認めた爵位にもかかわらず、全国の貴族士族に、勝手に公爵を名乗る不届き者を討てと勅書を出しておられます」


「我が家には勅命が来ていないな。

 まさかとは思うが、爺様や叔父上達に送られているか」


「いえ、流石にあの国王陛下でも、当家に送っても無駄だと理解しているようです。

 下手をすれば、カンリフ公爵殿に注進するかもしれないと疑っています。

 いえ、そのように諫言して止めたと自慢していた重臣がおられました」


「本当に愚かな国王だな、あいつは。

 俺にだけ送らなくても、全国の貴族士族に送ったら、必ず誰かがカンリフ公爵に知らせるとは考えられないのだな」


「はい、そのように諫言した重臣もおられたようですが、遠ざけられてしまったそうで、もう誰も諫言しなくなっているようです」


「馬鹿王の周りには、佞臣奸臣しかいないという訳か。

 遠くないうちに、馬鹿王はカンリフ公爵に追放されるだろう」


「はい、私もそのように思います」


「引き続き馬鹿王とその周りを調べさせてくれ。

 それと、教会に預けられている馬鹿王の兄弟の様子も調べておいてくれ」


「承りました。

 カンリフ公爵の周りは、今まで通り調べなくてもいいのでしょうか」


「そっちはダエーワ衆に調べてもらう事にする。

 ダエーワ衆の中にはカンリフ公爵家に雇われている一派もいるのだろう。

 金次第では、そこから情報を得る事もできるのだろう」


 戦場で出会えば命懸けで戦う影衆だが、情報のやり取りで付き合いがあるはずだ。

 自分が欲しい情報を得るために、あまり重要ではない主家の情報や、主家には必要ないが相手が欲している情報を与える場合があるはずだ。

 前世のスパイはバーターで情報をやり取りしていた。

 俺が調べた忍者の情報収集も、同じようにバーター取引をしていた。

 この世界の影衆も、同じように情報のバーター取引をしているはずだ。


「左様でございますね、そうしていただく方が、我々も重要な相手に戦力を重点投入できますので、カンリフ公爵家の事はダエーワ衆をお使いください」


 随分あっさりと認めてくれたが、俺の考えを見抜いたのかな。

 だとしたら、心からは信頼されていないと傷ついているかな。

 だが、俺が一族郎党衆として遇した事で忠誠心は上がっているはずだ。

 ちゃんと手当てして、上がった忠誠心は維持しておかないとな。


「他の影衆に役目を振らなくてもいいように、一族を増やしてくれ。

 そのために必要な費用は惜しまないから」


「有り難き御言葉を賜り、恐悦至極でございます。

 今も本領地内で孤児達を鍛えておりますが、これからも全国の孤児を集めて、侯爵閣下の目となり耳となる影衆を育ててみせます」

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