第37話:開戦直前
皇紀2219年・王歴223年・早春・野戦陣地
「慌てる事はない、城に籠って攻め込んでくる敵を確実に討てばいいのだ」
俺は城と言い切ったが、本当は城ではない。
エクセター侯爵軍の侵攻を迎え討つために急いで作った野戦陣地だ。
自分の領地には絶対に踏み込ませないと宣言して、南側のエクセター侯爵領に入り込んで、川の手前にある山とプランケット湖の狭隘部に陣地を築いたのだ。
俺を攻撃しようと思ったら、エクセター侯爵軍は川を渡るか山を越えるか、あるいは海のように広大なプランケット湖を舟に乗って渡らなければいけない。
それに野戦陣地とは言っても、十分な防御力と居住性を備えている。
四重の塹壕を掘り、塹壕の前後に馬防柵と逆茂木を並べ、中央に屋敷群がある。
城のように攻守三倍とは言わないが、二倍の敵が相手でも十分撃退できる。
川を渡るところを上手く叩く事ができれば、三倍四倍も不可能ではない。
問題があるとすれば、険しい渓谷を使って本拠地を狙われる事と、舟を使ってプランケット湖を渡り、背後を盗られる事だろうか。
「侯爵閣下、エクセター侯爵軍が兵を二手に分けました。
一万五千の軍勢が自由都市の方から進軍してきております。
五千の兵が渓谷を使って本城を目指しております」
「分かった、全ての城に状況を知らせてくれ。
特に渓谷の外側に野戦陣地を築いたオスカー叔父上と、エレンバラ城におられる母上とエマ再従姉には、一番先に知らせてくれ」
「はっ、既に配下の者が伝令に走っておりますが、念を入れて第二の使者を送りますが、何かお伝えする事はございますか」
「ハリーを信じて城から出ないようにと伝えてくれ」
「はっ」
「それと、敵将の配置は分かるか。
特にエクセター侯爵がどこにいるのか知りたい」
「あくまでの事前に集めた情報と、侵攻軍と別働軍を率いている将の性格からの予測ですが、それでも構いませんでしょうか」
「構わない、分かっている範囲で報告してくれ」
「では、エクセター侯爵は居城に残っているものと思われます。
事前に集めた情報通り、本軍はエクセター侯爵の嫡男が指揮しております。
以前侯爵閣下が討ち取られた重臣の跡継ぎと別の重臣の二人が補佐しております。
別動軍は、以前侯爵閣下が討ち取られた重臣の跡継ぎと別の重臣の二人が指揮しております」
「なるほど、嫡男に軍事的な成功を収めさせて、順当に家督を継がせる気だな。
それと、俺に当主を討ち取られた重臣家の面目も立てる気なのだな」
「はい」
「エクセター侯爵が居城から動かないのは、国境から兵を引いたとはいえ、カンリフ騎士家の奇襲が怖いと言う事か」
「はい、属臣として支配下に置いている、他の地方の貴族家や士族家を護る姿勢を示さないと、属臣がカンリフ騎士家に寝返る可能性がございます。
国王陛下を手中に収めたカンリフ騎士家が、王家王国の名を使って、全国の貴族士族を支配下に置こうとしております。
今属臣に離れられてしまったら、エクセター侯爵家は一気に力を失います」
確かに影衆の言う通りだが、俺を甘く見過ぎたな、エクセター侯爵。
俺に負けたら、一気に属臣がカンリフ騎士家に寝返るぞ。
カンリフ騎士家の事など気にせずに、全力で俺を叩き潰さなければいけないのだ。
だが、まあ、これが一番マシな選択だったろうな。
もしエクセター侯爵本人が来ていたら、俺がその首を取っていたからな。
それに、負けなくても、配下を守る姿勢を見せていても、裏切る奴は裏切るのだ。
「トリムレストン子爵家の動きはどうなっている」
「エレンバラ皇国名誉侯爵家の布陣」
南の野戦陣地 :ハリー・当主
北の野戦陣地 :アーチー・四番目の叔父
峡谷南の野戦陣地 :オスカー・三番目の叔父
ロスリン城 :ノア爺様
エレンバラ城 :オリビア母上・エマ再従姉
エレンバラ城の詰の城:ローガン大叔父
クレイヴェン伯爵方面:トーマス従叔父
機動部隊 :ジャック・一番目の叔父
:フレディ・二番目の叔父
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