第32話:名誉皇国侯爵
皇紀2218年・王歴222年・秋・ロスリン城
国中の王国貴族の度肝を抜いてやった。
俺は単に皇太子殿下に即位式をやってもらっただけではない。
崩御された百五代皇帝陛下は即位式をあげるのに十年かかった。
先代の百四代皇帝陛下に至っては、即位式を行うのに二十一年もかかっていた。
それを俺は服喪期間が明ける一年後にやってみせたのだ。
実現させたのは最低限の即位式だけではない。
それに加えて皇帝陛下が神に豊作の祈りを捧げる儀式を復活させたのだ。
百三代皇帝の時を最後に行われてこなかった儀式だが、その儀式がとても大切だと思えたから、金貨一万枚と言う大金が必要になるが、復活させる事にしたのだ。
いにしえの昔、神の一柱がこの地上を救うために舞い降りられたという。
その神の直系子孫が皇家だと言うのは眉唾物だが、新皇帝が即位する時に民のために豊作を願う儀式は、絶対になくすわけにはいかないと思ったのだ。
「まあ、まあ、まあ、まあ、ハリー殿が皇国名誉侯爵に叙勲されたのですか。
これでは、正室は皇国侯爵家以上からしか迎えられないではありませんか。
困りましたね、それでは候補が限られてしまいますね。
皇国侯爵家は七家、選帝侯家で残っているのは四家だけしかありません」
また母上が舞い上がってしまっている。
俺は血が濃くなって魔力が弱くなった娘を嫁にもらう気はないのですよ。
もう既にイシュタム族が全国から魔力の強い娘を集めてくれている。
アイザックがその娘に、魔術だけでなく行儀作法も仕込んでくれている。
俺もできるだけ教育現場に行って親交を深めているのだ。
「母上、余り事を急いでは皇国貴族達から嫌われてしまいますよ。
それよりも、私はもっと皇帝陛下のお役に立ちたいのです。
皇帝陛下と皇国が困っておられる事はありませんか」
「そうですね、皇帝陛下や皇国が困っておられる事と言えば、矢張りお金ですね。
皇家の直轄領を王国貴族や教会が占領してしまっているのです。
作物は届かず、労役も課せられません。
先代皇帝陛下は、日々に飲むお酒にすら困っておられました」
ああ、腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ。
権威を求めて皇家を滅ぼさずに利用したのなら、最低でも衣食住は保証しろよ。
自分達が国を治める正統性を主張するために、皇家と手を組んだのだろうが。
王位継承権を争うのなら、戦うのではなく国を富ませる事で争えよ。
魔力さえあれば、幾らでも国を富ませる事ができるのがこの世界だろ。
より国を富ませる事ができる者こそが、国王に相応しいだろうが、ボケ共が。
「それはいけませんね、皇帝陛下に送る酒の量を増やしましょう。
勿論ヴィンセント子爵家にも分けていただけるように、お伝えさせて頂きます」
「何時も実家にまで気を配ってくれてありがとうございます、ハリー殿。
ハリー殿のお陰で実家も生活が楽になったと言ってきております。
皇帝陛下がハリー殿の献上品を皇国貴族に配る事で、皇帝陛下の皇国貴族に対する指導力が著しく強まったとも言ってきております」
皇家の継承問題に口を挟む気はないが、伯母上に男児が誕生すれば、俺と血縁のある人間が皇族の中にいる事になる。
最近の皇家は、皇子や皇女として子供を遇するだけの金がなくて、皇太子以外は教会に入れられていたが、俺が支援すれば新しい公爵家を立てられる。
いや、場合によったら大公家を立てる事も可能だ。
今の我が家は周囲を強敵に囲まれていて、正直身動きが取れない。
だが血縁の従弟が皇国公爵や大公に成れば、大きく話が違ってくる。
従弟を大公位にして、王家貴族に占領された皇家の直轄領を譲られる形にする。
俺が従兄弟である大公を助けてその領地を王国貴族から取り返し、その後で周囲の領地を切り取れば、強大な大公家を創りだすことができるかもしれない。
問題はどこに皇家の直轄領があるかだな。
できれば押領している王国貴族が弱い場所がいいな。
「母上、皇帝陛下が王家貴族に奪われた領地の事をもっと詳しく教えてください」
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