第33話:侵攻軍編制
皇紀2218年・王歴222年・冬・ロスリン城
今俺が支配している領地は、四方全てを強力な敵に囲まれている。
北側にはエクセター侯爵の陣営に所属している、領民二十万人のトリムレストン子爵家があるが、主君である王国貴族家を滅ぼして成り上がった武闘派の貴族家だ。
しかも我が家とトリムレストン子爵家の間には、領民が一万人もいるエクセター侯爵家の直轄領がある。
この方面に領地を増やそうと思えば、二家と戦う覚悟がいる。
俺が滅ぼしたロスリン伯爵家とトリムレストン子爵家が争わないように、支配主であったエクセター侯爵が直轄領を設けたのだ。
俺が滅ぼしたロスリン伯爵家もトリムレストン子爵家に滅ぼされた前領主家も、俺やエクセター侯爵とは同族だが、愚かで身勝手だから滅ぼされたのだ。
前領主家は、王家や宰相家と同じように家督争いで勢力も人望も失っていた。
内紛が絶対に許されないのは、それを参考にするだけでも分かる。
話が逸れたが、プランケット湖を挟んだ東対岸にエクセター侯爵家がある。
南山側にはこの国で一番権威と兵力を持つ教団の本拠地があって、とても攻撃できない雰囲気が国中に満ちている。
プランケット湖の湖岸平野部を沿った南側には、その教団の領地である自由都市があるのだが、実際に自由都市で力を持っているのは狂信的な別の教団だ。
自由都市に離宮を定めた国王は、二重に教団に守られている事になる。
一番攻めやすいのは、山を越えた西側にある、家督争いで内紛中のクレイヴェン伯爵家なのだが、家督を争っている父親の方が自由都市に逃げ込んでいる王国宰相の娘を正室に迎えていて、息子の方はエクセター侯爵家から正室を迎えている。
俺からクレイヴェン伯爵領に攻め込めば、まず間違いなく、国王と宰相はエクセター侯爵に我が領への侵攻を命じるだろう。
首都にはカンリフ騎士家が傀儡にしている新しい宰相がいるが、全ての王国貴族が自分の利益になる方の命令を聞くので、エクセター侯爵家は必ず攻めてくる。
だが、例えエクセター侯爵家の全軍三万五千兵に攻められたとしても、防衛戦をしている間にクレイヴェン伯爵領を奪う自信がある。
それは間違いないのだが、一日二日で領地を奪って全領民を慰撫する事は無理だ。
時間をかけているうちに、領境の城に逃げ込んだ多くの領民が、エクセター侯爵軍に殺傷される事になるだろう。
「叔父上方、配下の兵士の訓練は進んでいますか」
「はい、軍馬の扱いに慣れた者を選抜して騎馬隊を編成しました。
弓の扱いに長けた者を集めた長弓隊も編成しました。
歩兵部隊にも強固な鎧を貸し与えましたので、少々の事では負傷もしません。
完成した弩の数だけ弩隊を編成しましたが、彼らは城に残すのですよね」
鉄砲の開発はしなかったが、既にこの世界にあった弩は大量に購入した。
皇家と皇国の影響力を駆使して、首都周辺にいる職人を集めてもらった。
金も戦力もない皇家や皇国では雇えないが、俺ならば雇える。
弩があれば、戦った事のない平民の女子供を弩兵にする事ができる。
しかも城に籠って使わせたら、敵兵の攻撃に怯える事なく放つことができる。
母上を護るための戦力としては最高の部隊だ。
「ええ、それでいいですよ、叔父上。
新たに皇家から送られてきた兵士を伍、什、廿、百の部隊に編成して、五百を独立部隊として戦場に投入する心算です。
弩隊が充実すれば、攻撃魔法陣に加えて城の防衛戦力にできます。
領地の事を気にせずにクレイヴェン伯爵領に攻め込む事もできれば、王家貴族に奪われた皇家直轄領に、奪還の軍を送る事もできます。
問題は兵士をまとめて部隊を率いる事のできる指揮官です。
いい指揮官は育っていますか」
「その構想は侯爵閣下からお聞かせいただいておりましたので、王家の監督者として各地を転戦している間に知り合った者、歴戦の連中に手紙を送りました。
エレンバラ男爵家の頃から仕えてくれていた、譜代の騎士や徒士は勿論、資質のありそうな兵士も鍛えました。
九千に増えたロスリン侯爵軍を、縦横無尽に操れるだけの体制は整いました」
「そうですか、では春に成ったら出陣します。
その心算で最後の鍛錬と新部隊の編成をお願いします」
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