第29話:叔父上達
皇紀2218年・王歴222年・春・ロスリン城
俺は満九歳、当年とって十歳になったが、殺伐とした生活を送っている。
「エレンバラ伯爵閣下、我らが知らない間に国王がやった事とは言え、謀叛に近い事をやった我々を温かく迎えてくださり、感謝の言葉もありません」
ジャックの叔父上が兄弟を代表して口上を言い、四人揃って臣下の礼をとってくれたが、事前にこうするように爺様と話し合ってくれたのだ。
まあ、爺様にこうするように指示したのは俺だから、分かっていた事だ。
叔父上達が俺に臣下の礼を取るところを、膨れ上がった家臣達に見せる。
そうする事で、俺に対する畏怖の念を家臣領民に植え付けて求心力を高める。
初陣で大勝利した事で両方揃ってはいるが、高ければ高いほどいいからな。
「いや、王国男爵待遇の地位を捨ててよく戻ってくれました。
叔父上は勿論、従弟達も決して粗略には扱いませんよ。
叔父上達はエレンバラ伯爵の柱石なのですから」
俺の言った事に嘘はない、叔父上達には活躍してもらう心算だ。
まだまだ幼い身体の俺には、眠くなったら我慢できないという大きな欠点がある。
圧倒的な魔力はあるが、実戦経験は魔力で圧倒した初陣しかない。
あまり魔力に頼らない戦いは、爺様や大叔父、従叔父に頼るしかなかった。
こんな状況では、実戦経験の豊富な叔父上達が頼りになる。
特に何万もの大軍が正面から戦う現場など、滅多に経験できないからな。
「有り難き御言葉を賜り、感涙が収まりません。
伯爵閣下のためなら、身命を賭して戦わせていただきます」
「叔父上達のその言葉、頼りにさせていただきますよ。
つきましては叔父上方に預ける兵力ですが、それぞれ五百を率いていただきますから、何時でも動けるようにしておいてください」
「「「「「え」」」」」
叔父上達が凄く驚いているが、それも当然だろう。
父が率いていた頃のエレンバラ男爵家が領外に出せる戦力は二百ほどだった。
五百と言えば領民二万人の男爵家に匹敵するのだ。
分家に背かれて指導力のなくなっていたロスリン伯爵家と同じ兵力だ。
叛乱未遂に加担した疑いのある自分達が預けられる兵力ではないと思っている。
「叔父上達にはよく理解しておいてほしいのです。
私はエレンバラ名誉皇国伯爵、ロスリン王国伯爵、エレンバラ王国男爵、エレンバラ名誉皇国男爵の四つの爵位はずっと持っている心算です。
ですが他の五つの男爵位は、働きの大きい家臣に与えようと思っています。
大叔父上が一番の候補ですが、叔父上達も家臣達も候補です。
預けた五百の兵力で、我が家の力になる事を証明していただきたいのです」
「それは、何時でも敵の侵攻を迎え討てるようにしておけと言う事でしょうか。
それとも、何時でも他領に侵攻できるようにしておけと言う事でしょうか」
今回もジャックの叔父上が兄弟を代表して聞いてきた。
「両方ですよ、叔父上」
「場合によったら、山を越えてクレイヴェン伯爵領に攻め込む事もあるのですか」
ジャックの叔父上が真剣な目で確認してくる。
いい着眼点だが、もう少し深く読んで欲しいな。
それとも、俺に危険視されないように、この程度にしているのかな。
「兄弟や叔父甥で家督を争っているクレイヴェン伯爵領には攻め込みたいですよ。
ですが残念ながら、クレイヴェン伯爵家は王国宰相家やエクセター侯爵家から正室を迎えている名門ですから、こちらから攻め込むわけにはいきません。
ですが攻め込んできてくれたら、大義名分ができます。
家督争いで疲弊したクレイヴェン伯爵家が動員できる兵力は、最大に見積もっても二千ほどでしょうから、叔父上達に預けた兵力で攻め取る事も可能でしょう。
そうなれば、叔父上達にこの一帯をお任せする事もできますよ」
俺の言葉に叔父達の目の色が変わった。
プランケット湖に面した豊かな領地をもらえる可能性があるのだ。
名目だけの男爵ではなく、領地を持つ本当の男爵に成れるのだ。
元の主君、国王に逆らってでも本気で戦ってくれるだろう。
例え国王に刃を向ける事になっても、躊躇うことなく戦ってくれるだろう。
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