第28話:婚姻政策

 皇紀2217年・王歴221年・冬・ロスリン城


「母上、叔母上の御一人が、カンリフ騎士ルーカス卿の弟、ライリー殿の所に側室として嫁いでいるというのは本当ですか」


 俺に真っ向から聞かれて、母上が固まってしまわれた。

 

「娘の結婚は父親が決める事ですから、母上が気にする事ではありません。

 ただ正確に教えていただけないと、伯母上を戦に巻き込んでしまい、最悪死なせてしまう事になりかねません。

 どうか隠し立てせずに教えていただきたいのです」


「分かりました、実家の恥になる事ですから、今までは話す事ができませんでしたが、このような状況になっては話すしかないですね。

 姉や私が嫁ぐ前の実家は、とても困窮していたのです。

 教会に入れるのではなく、どこにでも嫁がせて、少しでも支援が欲しい。

 それほどまでにヴィンセント子爵家は追い込まれていたのです」


 母の話しは経済的にとても悲惨な内容だった。

 最悪の場合は、金周りのいい平民の妾に娘を差し出す事まで考えていたらしい。

 一番上の伯母が教団の有力者に嫁いだのと、母上が父に嫁いだことで、最悪の経済状態を逃れられたので、母上の直ぐ下の叔母は、首都近郊の騎士家に嫁いだそうだ。

 だが二番目の叔母が嫁ぐ頃に、ヴィンセントの爺様にカンリフ騎士ルーカス卿から大きな誘惑があったらしい。


 二番目の叔母を弟の側室にくれるのなら、器量よしの四番目の叔母を、皇帝陛下の妾にする手助けをしてくれると言うのだ。

 ヴィンセントの爺様はその誘惑に抗えずに、二番目の叔母を側室に差し出した。

 まあその頃のカンリフ騎士ルーカス卿は、既に王国宰相家と互角に戦える実力があったから、その縁者に成れるのなら側室でもよかったのだろう。

 父親にもルーカス卿にも無視された三番目の叔母は、修道女になってしまったが。


 だがヴィンセントの爺様が決断した事は、皇国貴族としては間違いではない。

 娘が有力貴族家に匹敵する騎士家の当主ライリー卿の側室になり、その支援で生活が楽になった上に、さらなる支援で娘の一人を皇太子殿下の妾にする事もできた。

 普通なら陪臣騎士家に嫁ぐなら正室なのだが、先に皇国選帝侯家からライリー卿に正室が入っているから、正室を押しのける事などできなかったのだ。


 カンリフ騎士ルーカス卿は、ここまで手を打ってから、皇太子殿下を経済的に追い詰めたのか、まさに鬼だな。

 ここまでやらなければ、この世界では成りあがれないのか。

 だとしたら俺は成り上りたくはないのだが、もう敵を作ってしまった。

 覚悟を決めて血で血を洗う修羅の道を進むしかない。


 それにしても、母上達はこんな状況で俺に資金援助を求めてきたのか。

 最悪の場合は、ライリー卿に嫁いだ叔母が殺されてしまうかもしれないのだ。

 それでも葬儀費用を集めるとは、皇太子殿下や皇家に対する忠誠心が強いのだな。

 もしかしたらライリー卿の嫁いだ叔母と母上は腹違いで仲が悪いのかもしれない。

 こんな事は母上に聞けないから、影衆に調べてもらおう。

 母上が叔母と仲が悪くても関係ない、いい縁があるじゃないか。


 今この国で最も力を持っているカンリフ騎士家と我が家は、ヴィンセント子爵家を通じて親戚なのだ。

 カンリフ騎士家当主の弟の側室と、エレンバラ男爵家当主の実母が、腹違いの姉妹という、とても遠い関係ではあるが、親戚なのだ。

 実の親兄弟で殺し合う世界では、敵対すれば他人同然だが、味方であるうちは有力な親戚衆になる。


「分かりました母上、今まで黙っておられた事は何も言いません。

 ですがこれからは、全ての親戚関係を教えてください。

 援助をするにしても、こちらから頼みごとをするにしても、血の濃さを知っておく必要があるのです、母上」


「ええ、分かりました、これからは全て話させてもらいます。

 これは言っておかなければいけないのですが、フリーク男爵家に嫁いだ妹は男児を設けています。

 ただ選帝侯家から嫁いだ御正室に嫡男が生まれているので、フリーク男爵家を継ぐことはありません」


 これはますますいい感じだな、色々工作のしようがある。

 その嫡男を暗殺させるような事はしないが、二人の従兄弟に王国男爵位を与えて、嫡男と争わせる事は可能だ。

 ロスリン伯爵との戦争に勝って、俺は六つの爵位を手にいれている。

 ロスリン伯爵、ディグビー男爵、カーベリー男爵、エヴァンズ男爵、ダンセイニ男爵、ダンボイン男爵だが、これは俺の自由に扱う事ができる。


「母上、フリーク男爵家の叔母上に手紙を書いていただけませんか」


「カンリフ騎士家」

ルーカス:当主:ルース地方とネイピア地方とバルフォア地方

 ダニエル:嫡男:

イーサン:長弟:アースキン地方

メイソン:次弟:マレー地方とマレー海軍を支配

ライリー:三弟:

 トビー:皇紀2209年誕生・母はリンスター選帝侯の娘

 レジー:皇紀2211年誕生・母はリンスター選帝侯の娘

 アルロ:皇紀2212年誕生・母はヴィンセント子爵の娘

ハリソン:四弟:

タイラー:長老:

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