第3話 人間と吸血鬼の共存

 輝流の前に現れた人物。それは星澤千鶴。


「君は千鶴君か」


「二回吸われてましたよね?私のカースで見ていましたよ?」


「なんで白香でもなく芽亜でもなく僕のところに来たのかな?」


「私は貴方にしか興味がありませんから、たとえ貴方が吸血鬼になってしまっても私が直します。動かないでくださいね」


 カースは光のような球体になり矢に張り付き弓で千鶴は輝流を射った。


「浄化の矢、これで貴方はまだ吸血鬼化から免れます」


「無理だよ、無理なんだよ。僕が、僕こそが始祖なんだから」


「どういうことですか?ならなぜ白香さんに抑制を使われた挙句血まで吸われ芽亜さんに血まで吸われてるんですか?」


「あははっ、そこも見られてたのかー…白香に抑制なんて異能はないよ。僕がわざと伝えなかっただけ…白香と芽亜には血をあげないとね…人間の血を吸わないように僕が血をあげないと」


「貴方が始祖なら…その浄化の矢は永遠に効いてしまう…で、ですが圧倒的回復能力、戦闘能力があるので私なんて倒せるじゃないですか」


「回復能力は芽亜にあげたから僕にはないよ…確かに…僕に能力はあるよ…ぐはっ…」


「わ、私は殺すつもりなんて…カース、戻って」


 千鶴は慌てて矢を抜いた。


「はぁ…はぁ…僕が使った異能は洗脳…それだけだった」


「だ、誰に使ったのですか?」


「お母様、いや、正確には僕のお母様でもないんだ。相川輝奈は」


「え…?」


「相川輝奈は離婚した、その原因は子供を産めなかったから捨てられた」


「ど、どういう…」


「それが原因で崖から飛び降りようとしていたところを僕は見つけたんだ…理由を聞いたら子供を産めなかったから。だから僕は洗脳という能力を使った。僕は貴方の子供です、お母様、と。そして僕はお母様と住むことになったんだ。相川輝奈とね。でも反応を察知する異能に目覚めてしまった。僕は何とか隠し通せたけど僕の同胞は人間に殺された。もう僕を含めて三人しかいない。僕を殺せばすべてが終わる。やっぱり、人間と吸血鬼の共存は上手くいかなかったね、どこで間違えたかな…」


「なぜ共存を望んだのですか?」


「それは洗脳をかけるよりも前の話…」



 その時彼はぼーっとしていた。彼は人間の血を吸ったことも生き物、肉や魚すら食べたことはない。トマトジュースを飲む小食の吸血鬼であり始祖であった。吸血鬼が増えたのは人が死に落ち吸血鬼として転生したため。ある日農家に彼は訪れた。


「こんにちは…」


「こんにちは、金髪の子か、珍しいね」


「人間はどうして生き物を殺せるの?」


「生きるためだよ」


「僕は生きるために仲間を守るために人間を殺してはいけない?」


「当り前だよ、それは犯罪だからね」


「犯罪…人間と吸血鬼が仲良くできるかな」


「もし吸血鬼がいたら怖いね、でも行い次第では人間と仲良くしていけるんじゃないかな?」


「人間は魚を食べるのに魚を育て、牛を食べるのに牛を育てる。卵を得るために鶏を育てる。どうしてそんなことができるの?」


「それも生きるためなんだよ」


「でも本で読んだときは吸血鬼は生きるために人間の血を吸ったら人間に殺される。僕は人間を敵に回してはいけない。人間と一緒に暮らし助け合う存在にならなければ僕たちは滅んでしまう」


「君は変わった考え方を持っているね、名前は?」


「僕に名前はない」


「変わった子だね、そうだ、キャベツ農家なんだけど君はキャベツを食べたことはあるかな?」


「美味しいの?」


「余ってるからあげるよ」



「あの時からだったよ、僕は新しい食材に手を出して人間という存在に興味を抱いた」


「キャベツが好きなんですね」


「そして僕は変身能力もない、ずっと同じ姿。だから姿を変えなければならなかった。そんな時に噂を聞いたんだ。星澤千鶴という人物は可愛い男性が好みだと。だから僕は男装つもりだったけど女装して興味を抱かせようとした」


「え…私が好きだったってことですか」


「そう…どうせなら相川輝流ではなくて星澤輝流として生きたかったな…」


「その輝流という名前はどこから?」


「僕のお母様の名前が輝奈、だから輝、それと流れるはあの時の崖の上で聞こえた海の流れから流、を僕がつけたのかな」


「貴方は人間を恐れた、だから人間と共存する道を歩んだ。しかし人間側の私たちが貴方たち吸血鬼に手を出してしまった」


「全ては僕の洗脳から始まった。僕が異能を使わず相川輝奈を見捨てていれば察知される異能はなく僕たち吸血鬼は平穏を招けた。僕があの時見捨てればよかったんだ…」


「貴方に…貴方にそんな真似はできないように思いますけどね。輝流さん」


「僕が死ねば洗脳は解け相川輝奈は全てを思い出し自殺をし同胞の白香と芽亜は死ぬだろう、守れなかったよ…浄化の矢、なかなか効くね…もう人間の姿は保てないかな」


「人間は現実を受け入れなければならない。それは貴方のお母さん相川輝奈さんも同じことです」


「僕が洗脳しなければ…でも、白香と芽亜だけは…」


「わかりました、私はさらに心を打たれましたね、射貫かれたのは私ということですか」


「な…何を…」


「貴方は私が好きなんですね?」


「そうだね…もう人間の姿は保てない、恋愛をしてみたかった」


「相川輝奈さんには現実を受け入れてもらいます。そして私はカースを手放します。貴方のために。優結(ゆい)」


「君から名前をもらえるなんてね…もう限界か…」


「私と契約でもしますか?」


「もちろん…ある意味ずっと君と一緒にいられるね」



 相川輝奈は何かを思い出した。


「そうだ、私は捨てられた。あの男の子は誰だったんだろう。私のことをお母様と呼んだあの子は。自殺をしようとした私を止めてくれたあの子は。希望を持てって意味かな」


 相川輝奈は自殺を改めて引きとどまった。



 白香と芽亜は合流していた一刻を争う。


「主が危ない、助けないと」


「お姉ちゃんが、私のお姉ちゃんが…」


 そこに立っていたのは星澤千鶴。


「なんだお前は、お姉ちゃんをどこにやった」


「確か君は星澤千鶴…人間め」


「いますよ、ユイは…」


「誰だそれは…」


「お姉ちゃんを返せ」


「カース、いえ、ユイ、まずは白香さんに」


「なんだこの蝙蝠は」


「吸血してもいいですよ」


「誰がこんな…ん?この感じは主…」


「私が貴方たちの主を授かりました。いくら吸血してもその精霊、ユイは蘇る。そして私は精霊を操ると同時に精霊と会話できる異能を持ちます。輝流は優結となりました。そして彼は私についていくと、私が授かりましょう。事情は全て聞いています。ユイは言っておりますよ。人だけは殺さないでほしいと」


「主に手を出したらわかってるだろうな…」


「できたらお姉ちゃんは私のものにしたかったのに」


「私は白香さん、そして貴方は芽亜さんというらしいですね、二人の味方ではありません。ユイの味方です。私は差別はしませんよ、全て聞かせていただきましたからね」



 翌日。


「どうしました、ユイ」


(僕が消えてどう思われてるんだい?)


「大問題でしょう、私も貴方が始祖だとは思いませんでしたからね。ですがこの学校、特に副生徒会長の意味ないですから白香さんが生徒会長になるでしょう」


(まあ、僕は君の隣にいれるだけでいいよ)



 生徒会長は白香になり白香と芽亜に聞き出し雫と彰を呼び出した千鶴。


「なるほどなぁ、小さくなっちまったなぁ優結だったか?俺は黙っててやるよ」


「まさか主がお前だったなんてな」


「白香さんと芽亜さんを許してほしいと言っていますよユイは」


「ある意味一件落着か、いいぜ、久々につえぇ相手と戦えたしな」


「あたしは白香と話しに行くか」


「ユイも着いていきたいそうです」


「わかったよ、ほら、トマトやるよ」


「ユイの大好物はキャベツですよ」



「白香」


「雫か…」


「今回はお互いなかったことにするか、優結に免じてな」


「ま、でも人間を恨んでるから私たちは、忘れないでね」


「わかったぜ、あたしもお前らが変な行動したらわかってるな」


「白香さんと芽亜さんが何かしたらユイが動くそうです、では、人間側が何かしたら私が動きましょう。ユイのパートナーですから」


 少しずつではあるが雫と白香の距離は縮まっていく。



「こら、ユイ、軸がぶれます。的に外れるじゃないですか。本当に貴方は何でもありですね。そこがいいんですけどね」


 ユイとともに部活をしユイとともに勉強をしユイとともに千鶴は過ごすことになる。


「はいはい、分かりましたよ。キャベツですね。世話の焼ける精霊ですよ。可愛い始祖ですね」


(千鶴千鶴ー、この食べ物なんだい?)


「それはレタスですね」


(でも美味しくないねー、キャベツより千鶴の作るご飯が一番おいしいよー)


「今日のご飯は何にしましょうか」


(やっぱりあれでしょ、カレーライス)


「好きなものまで私と似てしまいましたね」


(もちろんキャベツ入りね)


「はいはい、分かりましたよ、ユイ」


 こうして千鶴とユイはお互い幸せに暮らすのであった。

 精霊にはなってしまったが人間と吸血鬼の共存。ある意味優結の願いはかなったのである。





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サバイバル ヴァンパイア @sorano_alice

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