第2話 知ってしまう吸血鬼

 翌日、輝流は雫のトマトが好きという話を元にある作戦を実行していた。行動派なため思いつくとすぐに行動に出てしまう。

 いつものように登校していると他の人たちから歓迎されるが気にする素振りを見せない輝流。その時精霊カースを見つけた。その精霊には気が行ってしまった。


「あの精霊は、どこに行くんだろ?」


 カースを追ったが飛んでいるため見失ってしまった。


「あやしいねー」



 そんなことを言いながら輝流は教室に着いた。

 雫は驚いた様子で輝流を見る。


「おいお前なんだその量のトマト」


「ん?昨日言ってたじゃないか。吸血鬼はトマトが好きなんでしょ?この量のトマトならおびき寄せられるんじゃないかな」


「馬鹿かお前は、さすがに多すぎだろ」


「多いほうが効き目もあるよ」


「トマト食べる?」


「それを受け取ったらあたしも疑われるってことだよな、遠慮しとく」


「こんなにあるのに、美味しいよ?」


「いや、いらねぇよ」


 輝流は行動派だ、続いて龍の元へ訪れた。


「ねえ龍、トマト食べる?」


 大量のトマトを見せられ戸惑う龍。


「お前どんだけトマト持ってきてんだよ、軽く三十個はあるぜ?お前が吸血鬼なんじゃねぇか?」


「僕は相川輝流だよ」


「わかってんだよそれくらい、こんないらねぇよ、お前食えんのかよ」


 どうやら輝流はトマトおびき寄せ作戦に出たらしい。


「まあいいや、今度は昼食かなー」



 まだトマトおびき寄せ作戦を諦めていなかった輝流。二年生の教室に向かう。


「千鶴君はいるかい?」


「私ですか?はい、なんでしょう?」


「トマト食べるかい?」


「なんですかその量、そんなに食べて平気なんですか?」


「おかしいな、カースもおびき寄せられないな」


「あ…あの?」


「ん?告白?僕のことが好きなの?いいよ」


 それだけ言うと輝流は去ってしまった。


「なんなんですかあの人。何でもありですね」



 結局輝流が三十個以上あるトマトも含め食べることになった。


「今日はいつもと比べてトマトが三十個もあるなー、豪華だなー」


 何とか全部食べられたが放課後まで体調を崩し保健室で過ごすこととなった。


「こ、こんな時に、回復、再生系の異能でもあれば…」



 ようやく放課後に体調を戻す輝流。一応生徒会室はある。資料に龍と千鶴の疑いは低いと書き記すために生徒会室に向かおうと入ろうとしたときに見てしまった。蝙蝠が生徒会室で白香に変身してしまっていることを。


「白香、さっき君変身してなかったかな?」


「あれ、体調は?」


「君はもしかして吸血鬼だったんだね?」


「なんのことー?」


「君はさっき窓から蝙蝠の姿で入ってきて変身まで使っていたよね?」


「見てたんだね?」


 すると急に白香の目が赤く光りだす。


「そうだよ、あたしは主の眷属、でも眷属でも異能は使える。あたしは主を、主の同胞を虐殺した人間を許さない。あたしの異能は抑制。輝流様はあたしが眷属だと人間に伝えられない。書き記すこともできない。あたしは特殊な吸血鬼だからね。輝流様のような血こそあたしの好物、大丈夫、輝流様はそのままだよ」


 それだけ言うと輝流は白香に首筋を噛みつかれた。輝流はみるみるうちに意識を失っていく。



 気づくと保健室にいた。雫が心配そうに輝流を呼びかける。


「大丈夫か?誰にやられた」


「……」


 抑制の能力か白香という名前を出せない。


「噛まれてるな、吸血鬼に噛まれた人間は吸血鬼になる。お前は吸血鬼になってるのかもしれない」


「ぼ、僕が吸血鬼に?」


「どうやら自我は保てているな。すまないが吸血鬼になってしまった以上お前に生徒会長は任せられない。あたしの能力を使わせてもらう」


 雫の太陽の光を放出する異能を輝流に使ったが消滅しない。


「お前は眷属になったのか?」


 白香は自分を眷属だと言っていた。眷属になれるのは始祖と契約した者のみ。

 首を横にも縦にもふれない。これも恐らく抑制の力だろう。


「お前は危険だな、あたしと来てもらう。白香と合流してお前を葬らないといけないかもしれない」


 それはだめだと言いたかったが抑制の力で言えない。

 輝流が軽いのか雫が力が強いのかよくわからないが輝流を抱えて雫は白香がいるであろう場所に向かいだす。止めることも言い出すこともできない抑制の力。



 何分か経ち、雫は白香と合流してしまった。何事もなかったかのように雫と会話する白香。


「お前の異能をあたしに使ってくれ、こいつは何者かに噛まれた。お前の異能は力を増幅させる異能だろ?」


「そうだよー、あたしは石を投げたら岩を投げたレベルまで力を増幅できる異能持ちでヴァンパイアハンターだからね」


 雫は白香に騙されている。本当の異能は抑制。それに彼女自身が眷属なのにヴァンパイアハンターなはずがない。


 そんな時、小学生くらいの人形のような緑の髪の少女が現れた。昨日輝流が千円をあげたあの人物だ。


「お姉ちゃんがいっぱいだー」


「なんだあいつ、知り合いか?」


「うーん、あたしは知らないな」


「何してるのー?」


「子供には関係ねぇ」


「そっか、じゃあここに倒れてる金髪のお姉ちゃんは持って帰るね」


「お前輝流と知り合いか?そいつはもう吸血鬼になってるかもしれねぇ、あぶねぇぜ?白香、あたしに異能を使ってくれ、力を増大させる異能を」


「いいよ、あたしの異能使うね」


 白香は雫に異能を使ってしまった。


「なんだこれ、力が…お前の異能は力を増大させる異能なんじゃ…」


「残念だったね雫、あたしの異能は弱体化させる異能なんだよ」


 抑制、弱体化、まさかの二つ持ちだった。


「力を増大させる…異能は…」


「そんなの元から持ってないけど?」


 さらに緑の髪の少女は言う。じゃあお姉ちゃんはその赤い髪の子をお願いねー」


「お前ら…吸血鬼か…」


「そうだよー、私は御園曽根芽亜だったよー」


「だった…?」


 御園曽根芽亜(みそそね めあ)。緑のロング髪。そしてなにより赤い瞳。小学生くらいだろう。

 弱体化された雫と抑制を受け意識が朦朧としている輝流は打つ手がない。

 雫は白香によって、輝流は芽亜によって連れ去られた。



 輝流と芽亜は。


「ねえ、お姉ちゃん。今日もお金頂戴?」


「お、おかねかー三千円しかないなぁ」


「五千円欲しいなー」


「三千円しかないなぁ」


「じゃあ吸ってもいいよね。お姉ちゃんの血、美味しいなー」


 またしても吸われることになる輝流。意識が遠のいてしまう。



 白香と弱体化した雫は。


「くっ…お前…」


 雫の異能など全く効かなかった。

 白香は雫を拘束した。


「君の血など飲みたくもないな。主は優しい、優しすぎた。だからあたしは助けられた」


「なに、始祖がお前を助けただと?」


「あたしは数年前ストーカー被害を受けて異能で監視もされた。もうすべてが嫌になって終わらせようと思った。そんな時主が助けてくれた。あたしはストーカーを弱体化させ異能を消滅させる異能を分け与えられた」


 そこに抑制の異能の話は出さなかった。


「ストーカーを弱体化させ監視の異能を持った異能力者の異能を消滅させた。ついでに相川輝奈の吸血鬼を察知できる異能もね」


「お前の異能で輝流の母親の異能を…」


「でも人間、先に手を出したのは君たちだよ?」


「なに?」


「確かに100体以上の同胞はいた、でも被害報告はあったかな?」


「なかったな…」


「あたしたちは我慢した。主が人間に手を出すなと言われたから。主は人間と吸血鬼の共存を望んでおられた。でも君たちから先にあたしたちの同胞を虐殺した。あたしからしたら、君たち人間のほうがよっぽど恐ろしいね。主は君たちが当たり前のように食べている肉にも手を付けないというのに。君たちは牛や鳥に殺されても何の文句も言えないね。主は殺さないように言うだろうし君の血には興味はない。身の程をわきまえろ」



 芽亜は輝流の血を吸ってすっかり上機嫌になった。そんな時一人の茶髪の柄の悪い男と遭遇する。


「まずそうな血だねー」


「あ?なんだお前、小学生か」


「お前から名乗れよ」


 態度がデカい小学生芽亜。


「なんだこいつ、生意気なガキだな」


「今日はさっぱりしたからねー、お姉ちゃんの血も吸えたし」


「誰だ?お前のお姉ちゃんって」


「お姉ちゃんの名前、確か、確か輝流だったかな」


「ん?輝流に妹居たのか?輝流と変わって態度でけぇな」


「私は御園曽根芽亜だった人間だよ」


「だった?お前は芽亜か、俺は水城龍だ、で、あんま調子乗ってると叩き潰すぞ」


「お前にできるかな?」


「なんだこいつイラつくなぁ」


 龍は不良である。そして相手は年下、しかし馬鹿にされている。


「一発わからせとくか」


 龍が頭にゲンコツした。


「痛いねぇ、手を出したのはお前からだからな」


 龍にものすごいスピードで芽亜が迫ってくる。


「こいつ、異能使いか」


 そして圧倒的力で殴りに来る。龍は吹き飛ばされた。龍はトップクラスで強いにもかかわらず小学生に殴り飛ばされた。

 路地裏まで吹き飛ばされる龍。


「お前は吸血鬼の敵か?」


「芽亜だったか?それはそうだな、お前は何なんだ」


「私たち吸血鬼が何をした?」


「お前、この圧倒的な力。そうか、お前が始祖か」


「私たち吸血鬼がお前らに何をしたか聞いている」


「何をしたか、だと?」


 龍は答えが出せない。


「だが待てよ。私達、まだいるってことだな。お前らの目的はなんだ」


「私たちは人間と吸血鬼の共存だった。主だけは今でも人間と吸血鬼の共存を望んでおられるだろう」


「主…だと、お前はこの力でも眷属なのか」


「私たち吸血鬼はお前らには何の手出しもしていない。なのに同胞を虐殺した」


「それはお前たちを生かしてたらいずれ吸血鬼であふれかえるからな」


「それは偏見だ、主は私を助けてくれた。主がいなければ今の私は人身売買されていただろう」


「どういうことだ?」


「私は追われていた。私はお前のような連中に辱めを受けられ屈辱的行為をされ、私はお前のような連中に暴力も受けていた。そんな時、主が助けてくれた。私は自己回復の異能を持ち、身体増強の異能を持ったことでお前たちのような人間を返り討ちにした。条件はあった」


「眷属化か」


「そしてもう一つ、人間を殺すなと、だからこそ我慢したのにお前たち人間から同胞に手を出してきたじゃないか」


「だがお前もお姉ちゃんって呼んでる輝流の血を吸ったんだろ?お互い様だ。あいつも吸血鬼化しちまったのか…」


「そんなことはどうでもいい、お姉ちゃんは私のものだ」


「残念だがあいつは男だ、生徒会長がいなくなるのはまずいな」


「お前は生かしてやろう。主がいなければ殺していたがな」



 芽亜に血を吸われた輝流は意識を取り戻したがもう夜だった。

 そんな時とある人物が現れた。

 その人物の正体は。


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