サバイバル ヴァンパイア

@sorano_alice

第1話 終わらなかった一掃作戦

 時は数年前、彼はまだ高校三年生ではなく中学生の時代。

 彼の母、相川輝奈(あいかわ かな)は異能に目覚めていた。察知する異能。この世に吸血鬼の生命を察知することができる異能。それは伝説上の生き物。しかし彼女の能力なら的確に吸血鬼だとわかってしまう。

 それをきっかけに戦闘系の異能を持つ戦闘部隊、のちにヴァンパイアハンターと呼ばれる部隊は察知した吸血鬼を100体近く探り出し殲滅した。もう街に吸血鬼はいないと思い込んでいた。

 そして高校受験の中学三年生、彼、相川輝流(あいかわ ひかる)。短髪で金髪をしていて青い瞳をしている。そして何より中世的外見。男性だが女性にも見える。彼は運動神経は悪いが頭は良い。

 彼は彼の母親、輝奈にこう告げられた。まだこの街に吸血鬼の気配があると。そして輝流。貴方にはその吸血鬼かそれ以上の異能を兼ね備えていると察知され、とある高校を勧められ入ることとなった。彼の成績なら余裕だった。

 その高校は立定塚(りっていづか)高校。別名対吸血鬼専門高校。この高校は学問よりも戦闘を意識した高校。輝流の母親、輝奈により吸血鬼が全滅していないとわかるのであった。輝流の異能は分からないものの、輝奈によると吸血鬼かそれ以上の異能を持っているが詳細は不明。ある意味ヴァンパイアハンター以上の最強の切り札になりえると彼は告げられた。

 しかし後に何らかの原因かわからないまま輝奈は異能を失った。



 そんな輝流であるが性格は非常に残念。自由翻弄で一度決めたらすぐに行動するタイプ。騙されやすい。そして二年になると中世的な外見のため女装癖が始まり彼の能力がわからないままである。ただし彼は可愛さを兼ね備えているため輝流様と女子から慕われ男性にも人気。さらに生徒会長に推薦され生徒会長になりそして今、高校三年生に至る。



 春の前半、輝流は生徒会長でありながら書道部でもある。異能にすら目覚めず吸血鬼も輝奈の察知する異能が失われたためわかっていない。


 彼に友達という友達はいない。それは独りぼっちという意味ではなくアイドル的存在で一目置かれているからだ。さらに彼は自由翻弄。一度思いついたことは何でも実行してしまう。ものすごい行動力だが運動神経は悪い方だ。

 

 彼は教室に入る。女子からは輝流様と慕われたりいろいろされているが特に関係なく席に座る。そして自分を可愛い存在だと思い込んだり女の子だと思い込んでしまうさらに残念な性格になってしまった。


「やっほー、おはよー」


「おはようございます、輝流様、今日も素敵ですね」


「ま、僕は女の子だからね、当然だよ」


 アイドル的外見で生徒会長にのし上がってきたといってもおかしくはない。ただし女子全員が様付けしているわけではない。


「おう、輝流じゃねぇか」


「君は雫だね、おはよー。僕は生徒会長になるつもりはなくて自由に生きたかったんだけどねー」


 花雫(はな しずく)。彼女はロングの赤い髪と赤い瞳をしておりかつての戦闘部隊、ヴァンパイアハンターの一人であった。異能は太陽の熱を放出する異能。吸血鬼の弱点の一つに日光がある。太陽の熱に吸血鬼は弱い。男喋りをしている彼女は実は輝流を生徒会長に推薦した人物である。


「仕方ねぇだろ、副会長がお前を推薦しろって命令してきたんだからよ」


「君、白香とどういう関係?」


 皆空白香(みなそら しろか)。ベージュのロングの髪をしている彼女は雫と仲が良く、輝流のことを輝流様と呼ぶ一人で、輝流ほどではないが成績優秀。また、この高校は7割女子。百合帝国にしようと目論んでいるらしく輝流は男だが外見は女なのでそれをきっかけに彼を生徒会長に推薦するように立候補させたのかもしれない。


「ま、腐れ縁ってやつだな」


「ふーん、まあいいけど」


「お前白香に興味あんのか?」


「ん?ないよ、僕女だし」


「お前は男だ、現実を見ろ」


「もしかして君、僕より可愛くないから妬いてる?」


「はぁ…白香の百合帝国にしてもお前にしてもなんでこんな残念なやつしかいないんだ」


 白香と輝流に呆れる雫であった。


 この学校は3学年あるものの人数が少ない。よって組は一組しかない。



 噂をすれば現れる白香。


「輝流様ー、資料持ってきたよー」


「白香かい、なになに?弓道部の二年、その少女が吸血鬼の可能性がある?ふーん理由は?」


「資料に乗ってるよ」


 その弓道部の二年とは。星澤千鶴(ほしざわ ちずる)。短髪の青髪をした金の瞳をした少女で輝流は男だが彼女は正反対。女にもかかわらず物静かでクール。どちらかというとかっこいい。噂では可愛い男性が好きらしい。全中の女の異名を持ち、その意味は全ての矢を的に的中させる命中力。三年生の弓道部の実力を超える。異能も持っているようでその異能は精霊を呼び出せる異能。その精霊の名はカース。蝙蝠のような精霊である。


「可愛い男性ね、ま、いいや。この精霊カースって言うのが眷属で千鶴って子が吸血鬼の始祖っていう可能性ね。確かに学校内に潜んでる可能性はあるね」


 始祖とは。吸血鬼の中でも始まりの吸血鬼。太陽の光を浴びた程度ではダメージにもならない。そして眷属。始祖と契約して吸血鬼になった個体。これは始祖の次に強い個体であり眷属も太陽の光ごときでは消滅しない。

 それ以外の下級個体の吸血鬼、その吸血鬼たちは太陽の光で消滅し、自我すら保てない吸血鬼である。

 この学校は特殊であり風紀よりもこの吸血鬼を探り出すことが最優先とされる。


「で、この千鶴って子は下級生だったよね確か。彼女が始祖でカースっていう精霊が眷属だとしたら残った吸血鬼は二体ってことね」


 ここでヴァンパイアハンターの雫は吸血鬼に関しては詳しい。話に入る。


「吸血鬼には変身能力も備わっている。もしかするとこのカースってやつが始祖の可能性もあるな、始祖さえやっちまえば眷属は滅びる。この千鶴かカースが始祖なら解決するんだけどな。お前の母親、輝奈さんは能力をなぜか失った。でもこの千鶴ってやつが吸血鬼なら矛盾が生じる」


「矛盾って何のだい?」


「吸血鬼の目はだいたい赤い。始祖も赤い可能性が高い」


「君の目も赤いじゃないか、雫」


「あたしは生まれつきだ。それに可能性の話だしな。あとはトマトが好きらしい。そして人間の血だな」


 白香は何かに気づくように雫に尋ねる。


「そういえばさ、吸血鬼殲滅作戦前にさ、吸血鬼による被害報告って出たの?」


「出てねぇな、問題が起きる前に片付けた」


「でもおかしくない?100体以上吸血鬼がいたんだよね?なのに吸血鬼からの被害は一件もなかったんでしょ?」


「確かに一件くらいあっても不思議じゃねぇな」


「本当に輝流様の母親の異能って吸血鬼を察知したの?実は吸血鬼じゃなかったんじゃない?」


「いや、それならあたしの能力で消滅するわけねぇだろ。吸血鬼以外の何だったってんだ」


「まあとりあえず僕がその千鶴君のところに行くわけだけど僕の異能わかんないからなぁ」


「あたしがついていこうか?」


「君は確かに太陽の熱を放出できる。でも始祖には無力なんだろう?何かあればその子も行動を起こすだろう。それに僕は吸血鬼かそれ以上の能力を持っているって察知されたし大丈夫でしょ」


「危機感ねぇな、ある意味お前は一番の切り札かもしれねぇんだぞ。性格は残念だけどな」



 昼食、やってきたのは茶髪の男。水城龍(みずしろ りゅう)。赤い瞳をしている。異能は持たないものの暴力面ではかなり強い不良的存在。


「よう輝流、今日もわけわかんねぇ飯食ってんなぁ」


 輝流の昼食、それは白米とキャベツ。おかずはない。それだけである。


「肉食え、男らしくなれねぇぜ?」


「僕はお肉とお魚が苦手だからね」


「せめて卵焼きとかねぇのかよ」


「その気になったらお母様が作ってくれるけど僕は卵アレルギーだから」


「肉も魚も卵も食わねぇのか、大丈夫かよ」


 キャベツご飯美味しいよ。


「いらねぇよ」


 輝流の好物はキャベツである。


「肉が嫌いなら唐揚げも食えねぇのか、トマト食うか?」


「君優しいね、僕の魅力に気づいちゃった?」


「お前殴ってやろうか?」


 輝流は何かに気づいた。


「そういえば君の目は赤いね。それに吸血鬼はトマトを好む」


「俺が吸血鬼とでも言いてぇのか?」


「監視対象だね」


「なんでトマトあるだけで監視対象なんだよ、意味わかんねぇな」


「一応生徒会長だからね、食べ終わったーちょっと僕は二年の教室に行ってくるねー」


「はぁ…自由だなぁ」


 呆れる龍であった。



「星澤千鶴君いるかい?」


「あ、輝流様よ」


「ほんとだわ」


 二年女子たちがざわめく中、短髪の青髪少女が輝流に声をかけてきた。


「私に何か御用でしょうか、輝流さん」


「君は千鶴君かい?」


「はい、星澤千鶴です」


 彼女の横には蝙蝠のような生き物がいる。


「君の蝙蝠はカースといったね。君のそのカースは精霊かい?それとも眷属かい?それとも始祖かい?」


 千鶴はようやく気付く、自分が吸血鬼だと疑われていることに。


「私が生き残りの吸血鬼だと言いたいのでしょうか?」


「疑いたくはないんだけどね、これも生徒会長の仕事だからね」


「精霊ですよ、ただ私の精霊は特殊で吸血鬼の対抗策銀にも変身できます」


「変身、ね」


 吸血鬼の弱点に銀製の武器がある。銃で撃ったレベルで吸血鬼は死なない。ただし銀製なら話は変わってくる。

 カースは銀製の姿に変身した。


「確かに吸血鬼の弱点は銀だからね、でも吸血鬼は変身もできる。でも君は敵意はなさそうだ。わかったよ、様子見かな」


 この学校は特殊である。生徒会の仕事はほぼ吸血鬼を探る仕事といってよく他のことは全て先生がしてくれる上に生徒会長、生徒副会長は存在するが他の生徒会役員が存在しない。



 放課後書道部の輝流。


「なるほどー、今日は三文字の言葉かー」


 輝流は自由翻弄だ。思ったことを何でも書いてしまう。

 半紙に吸血鬼、トマト、カースと書き記した。何でもありな生徒会長である。



「ふふーん、今日は夜になったし帰ったら何しよっかなー。お母様は夜中に帰ってくるし」


 そんな時、人形のような姿の緑のロングの髪をした少女から声がかかった。見た目小学生くらいだろうか。


「お姉ちゃん」


「ん?そうだよ僕お姉ちゃんだよー」


 ちなみに彼に妹はいない。その緑の髪をした人物は彼の女のような容姿にお姉ちゃんと呼んでしまったのかもしれない。


「お金一万円ちょうだい」


「僕一万円もないよー」


「お姉ちゃんは意地悪なの?」


「うーん、じゃあ千円あげるー」


 本当にあげてしまった輝流である。


「お姉ちゃんちょろーい。知らない人にお金あげちゃいけないんだよー」


「はーい、分かったよー」


 彼は気づかなかった。その少女の瞳が赤いことに。



 千円をもらった少女は呟く。


「あのお姉ちゃんは優しいなー。このお金でトマトを買おう。今日は吸わなくていっかなー」



 副会長白香と雫は部活に入っておらず副会長として外に怪しい人物がいないか探索している。


「おい白香。言ってないだろうな」


「あたしは言ってないよ、あたしもヴァンパイアハンターの一人だったってこと」


「お前の異能は目に見えねぇからな、お前と同じ部隊なら良かったのに、相性もいいし。隠し通せよ」


 雫に続き白香。彼女も異能持ちの上にヴァンパイアハンターであった。

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