ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[19]

「息抜きだ」

「そ、そうですか……」

 他に返答のしようもなく。

 それにしても、息抜きに美しい側妃のもとへ通うではなく、齢七つの幼女の部屋へ足を向ける成人男性の心理とは?

 分からん、と深く考えるでもなく、内心で首を捻るユーリだったが、

「兄上から興味深い話を聞いた」

「あにうえ、へいかの……アレク様に?」

「そうだ。本来なら、兄上からお前に話すべきなんだろうが……」

 エレナが用意したティーカップに、彼は唇を湿らせる程度に口をつけた。

 ふわりとベルガモットの香りがしたから、中身は紅茶だろう。

 匂いだけ楽しんでいるのかもしれない。

 ちなみにユーリには紅茶は供されていないのだが、基本的に就寝時刻後のお茶は禁止になっているからだ。

 望めば果実水をエレナが出してくれるだろう。

「昼間、面白い推理をしたようだな」

 ああ、なるほど、その件か。

「その、推理というほどのものでは……」

「宿屋の亭主と女将が捕まったそうだ」

 ユーリはゆっくりと、その言葉の意味を噛み締めた。

「――やっぱり、その二人が犯人だったのですね」

「兄上はお前の提案通り、赤獅子隊に夫妻を取り調べさせたそうだ」

 犯人である前提で、とそこで初めて彼は頬を僅かに引き上げた。

「自白したのですね。証言は一致したんでしょうか?」

 首肯の代わりに、簡素な上着を羽織った肩がすくめられた。

「なぜ分かった?」

「わかっていたわけではなく……たんに消去法です」

 部屋には他殺体があり、出入り口となる窓とドアには鍵がかけられていて密室であったというが、

「そもそも密室殺人とは、わざわざ密室をつくりだしてまで隠さなければいけない何かがあるはずです。犯人にとっては不都合な何か」

 たいていの場合は関係者のアリバイ工作に使われる。

「では今回の事件、密室であったことで容疑者からはずれた人たちは誰かとかんがえました」

「ドアに鍵が掛かっていたと言った、宿屋の夫婦……」

「はい。単純にアンドリューをしんじるならば、窓に鍵が掛けられていたことは確かです。とするなら――」

 ――ドアの鍵は嘘。

「もしくは自演か」

「なにしろ、経営者ですし。カギの開閉は自由自在でしょう」

「なるほど、消去法というわけか」

「はい」

 推理と呼ぶにもお粗末な出来と結末だ。

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