ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[18]
「…………」
無言。
(えっ)
なぜ何も言ってくれないのか。
粗相をしすぎて怒らせてしまったのだろうか。
怖い。
頭上からの圧力ばかり増していく気がする。
(き、気絶しちゃダメかな、これ)
プレッシャーに負けて、頭が徐々に下がっていく。
ユーリは最早、シーツに完全につっ伏して顔を埋めてしまった。
「へ、陛下、よろしければお掛けになりませんか?」
カタン、寝台の脇で音がした。
(エ、エレナ―!)
助けて!
――衣擦れの音が続く。
「……ユーリ・グレース・ノルディア」
「は、はい」
「そう畏まらずとのよい。顔を上げよ」
先ほどよりも近い場所から、声が聞こえた。
おずおずと窺うように頭を上げると、ちょうど目の合う位置に、彼の顔があった。
どうやら椅子に座ったらしい。
先程のように見下ろされるよりは、いくらか、何十分の一か位は、威圧感が薄らぐような気がする。
慌ててユーリは寝台から降りようとしたが、
「よい」
その短い一言でぴたりと動きを止めた。
(えっ、でも、本当は降りた方がいいのでは? その方がマナー的には正解なんだよね? でもでも皇帝陛下に逆らうのも……!)
苦悩するユーリから、皇帝は目を離さない。
なんだろう、怒っているというよりも、珍獣を眺めるような雰囲気が強いような。
「そなた……お前は寝るのが早いのだな」
「そっ……そうでしょうか」
「私……俺にとっては、まだ宵の口だ。子供だからか?」
「はい、えっと、おそらく……?」
なんだろう。
めちゃくちゃぎこちなく話しかけてくる。
脇のテーブルでいつのまにかお茶の準備を始めたエレナへ視線を逃した彼の凪いだ瞳の奥が、なんだか困り果てているように見えて、ユーリは一つ唾を飲み込んで背を起こした。
「あの、わたしは就寝の時間がきめられているので……陛下はまだおやすみにならないのですか?」
ぱちり、稲妻のような苛烈な目が、思いのほか毒気なく瞬いた。
「……俺はこの後、キリのいいところまで仕事してから寝る予定だ」
「えっ」
まだ仕事するのか、この人。
皇帝って大変だ。
「ええと、おいそがしいのですね」
でも、それなら、
「なぜこちらに?」
彼は意味ありげにユーリを眺めて、溜め息を吐くように椅子に深く背を埋めた。
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