ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[17]

 夜更け、人の話声でユーリは意識を覚醒させた。

「――リ様はお休みになって……」

「顔を見ることは……」

「……お待ちください、明日では……」

 緊張したようなエレナと、低い、男の人の声。

 ぼんやり目を開ければ、部屋の扉がうっすらと開いて灯りが漏れている。

 寝返りを打つと、夜着に着替えたエレナの背中が見えた。

「……エレナ?」

「ユーリ様!」

 弾かれたようにエレナが振り返る。

 その奥。


 光を受けて、切れ長の双眸が金色に輝いた。


 その稀有な眼差しの、圧倒的なまでのカリスマ。

 ユーリは息を止めた。

 遥か高みから自分を見下ろす、あの眼差し。

「へいか……」

 ノヴィリス帝国の皇帝、ジェイド・ノヴィリスは、深々と頭を下げる侍女の脇をあっさり通り抜け、ユーリの前に立ったのだった。

「――起こしてしまったか。夜分にすまないな」

 はく、とユーリは空気を食む。

 ユーリを見下ろす皇帝の背は高く、体付きは彼の異母兄、金獅子隊長のアレクセイに劣らず頑健そうに見えた。

 鼻筋は通って、形の良い唇は大きく薄い。

 こんな顔だったのか。

 見下ろされ、ユーリは声もなく硬直した。

「……ユーリ・グレース・ノルディア」

 響きは剣を撃ち鳴らしたかのごとく、硬く鋭い。

 ユーリはハッと意識を取り戻すと、慌てて起き上がって頭を下げた。

「へ、陛下、ではなく、えっと、帝国の太陽に、ご挨拶、もうしあげます……!」

 しどろもどろになんとか教わった通りの文句を口に登らせる。

(ていうか、まずベッドを降りるべきでは……⁉)

 寝起きで夜着のまま身だしなみも整えず、ぐちゃぐちゃになったシーツに蹲るようにして挨拶していいはずがなかった。

 どっと汗が噴き出る。

 しかし、一度頭を下げてしまった今、彼の許しがなくては動くことすらできない。

 そもそも入城した際の謁見以降、一度も顔を合わせることもなかったというのに、こんな深夜にこんな子供に一体全体何の用があるというのか。

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