ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[16]

(それに、エレナってば笑顔も可愛いけど、怒った顔がすごく可愛いんだもの)

 完璧な侍女たれと一生懸命自制するところがとても健気。

 主にゼンが関わると見られる表情なので、ユーリはついついエレナに彼の話題を振ってしまう。

 釈然としない顔のまま、エレナは櫛を鏡台に置いた。

「はい、よろしいですよ」

「ありがとう、エレナ」

 ぴょんと椅子から飛び降りて、今度は寝台によじ登る。

 ユーリを手伝いながら、エレナは嘆息した。

「やはり、早目にユーリ様に合った家具を揃えなければいけませんね」

「べつにいいのに」

 ユーリはにじにじとベッドの中央まで移動して、エレナが捲ってくれた寝具の中にくるまった。

 何しろ大陸をほぼ統一した帝国の皇城の貴賓室である。

 ユーリのような小さな子供が十人以上寝転がってもまだ余裕のありそうな広さと豪華さなので、たかがベッドの上に寝ころぶだけでも一苦労だ。

「ベッドも椅子もテーブルも浴槽も、ユーリ様に合っておりませんもの。これでは過ごしにくいでしょう」

 確かに全て大人サイズなので、椅子もテーブルの高さも七歳のユーリには大きすぎる。椅子には常に嵩増しのクッションを置いてからじゃないと座れないし、浴槽に入るにはエレナに抱き上げてもらわないといけない。

 ただでさえ、ノヴィリス帝国人は体格が良く、そもそもの規格が大きいのだ。

 でも、

「わたしだって、すぐに大きくなるもの」

「あら」

 なんていったって、たくさん食べて寝ているからね。

 ていうか、それしかすることがないし。

「さようでございますか。それはエレナも楽しみですわ」

 いかにも微笑ましい子供を見守る大人の顔で、エレナはユーリの額にかかった髪をそっと撫でつけた。

「それでは、お休みなさいませ、ユーリ様」

「うん、お休み、エレナ」

 エレナが部屋の灯りをそっと落としていくのを目で追いかけていたユーリは、彼女が部屋を出ていくのを見送って、瞼を閉じた。

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