ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[15]
ゆらゆらと揺れる灯りに目を奪われて、ユーリは知らず大きく欠伸を零した。
「あら、眠くなってしまいました?」
「うん、ちょっとだけね」
頭上から、ふふ、と淑やかな微笑が降ってくるのに、ユーリはのけ反るようにして背後を仰ぎ見る。
「もう、ユーリ様、御髪のお手入れ中ですのに」
「んっふっふ」
「ご機嫌ですこと」
櫛を片手にユーリの長く波打つ金髪を梳くエレナは、化粧っ気なく茶色の髪を一纏めに結い上げて地味な装いをしているが、実はかなりの美人だ。
ユーリが思うに、がっつり華やかに飾り立て、手をかければかけるほど輝くタイプと見た。
長く濃い睫毛の奥の瞳が知的で、実際にかなりの才女なのだそうだ。
聞いたところによると、歳は十八歳。
若いわりに落ち着いているように感じるのは、皇城に仕えているからだろうか。
「アレク様からいただいたスコーン、あしたの朝ごはんにだしてくれる?」
「ええ、かしこまりました」
「たくさんいただいたから、エレナもいっしょに食べてくれるでしょう?」
「ありがとうございます。ご相伴に預かりますわ」
「やった!」
子供だからだろうか、前世では一人の食事なんてなんともなかったはずなのに、今は誰もいない食卓が寂しくてしょうがない。
(まあ、一方的に世話を焼かれるのが居心地悪いっていうのもあるけど……)
前世、成人だったアドバンテージがなかったかのように肉体に精神が引っ張られてしまっていることを実感する。
「あしたはゼンがついてくれる日でしょう? 彼のぶんもおねがいね」
「……ええ、もちろんでございますとも」
微笑んではいるが、口元に若干の不本意感が滲んでいる。
んふふ、とユーリは思わず笑ってしまった。
「本当にご機嫌ですのね、ユーリ様。なにがあったのか、エレナに教えて下さいな」
「だってね、エレナったらかわいいんだもの」
エレナは不思議そうに目を瞬いた。
当初、ユーリ付きになった時のエレナは、完全完璧で全く隙のない侍女だった。
いつだって品のいい微笑を湛え、その表情は決して崩れることなく――その頃のエレナだって十分ユーリに尽くしてくれていたけれど。
あれから一月を共に過ごし、ようやく感情の機微を見せてもらえるくらいには、お互いに打ち解けてきたのだなと実感できて嬉しかった。
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