ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[14]



「――つまりだ。宿屋の旦那と女将の証言、またアンドリューの証言によって出入り口のドアは施錠されていたことは確かだ」

「その部屋の客の鍵は?」

「なんと死体の服のポケットから出てきた」

「となれば、やはり犯人は窓から逃走したのでは?」

「それがなぁ、アンドリューの奴、絶対に窓の鍵はかかっていたと言い張っているらしくて」

 それはつまり、密室殺人事件というやつでは。

 小説みたいと不謹慎ながら、ユーリは胸をときめかせてしまう。

 しかし、

「それは余り良くないですね」

 顔色を曇らせたヨアンに、アレクセイは重々しく頷いた。

「どうして?」

 ユーリの質問に、アレクセイは嘆息した。

「逃走した……おそらく逃走しただろう犯人を捜索する。その過程で怪しい奴を捕まえて尋問する。暴力的で過去に窃盗歴があり、急に羽振りもよくなった。こいつこそは犯人じゃないかという人間が出てくる。だが、」

「密室状態の部屋からどう脱出したのかあきらかにならないから、真犯人として確定できない……なるほど、そういうことね」

 例えば、その捕まえた人間が密室のことを知らなければ犯人にはなりえないし、仮に真犯人だったとしても密室の謎を解かなければ殺人犯として立証できない。

 警邏隊の身内からの証言が、むしろ事件解決を妨げているという状況か。

「そうはいっても、アンドリューの証言が事実なら、証言をもとに捜査していくしかないのではなくて?」

「残念ながら、そう真面目な人間ばかりではないということだな。今回のような不可解な事件は少ないし……今のところ、アンドリューが旅人の荷物を盗んだ事を隠すために嘘をついているいるだとか、そんな噂が囁かれ始めているようだ」

「馬鹿な!」

 ヨアンが吐き捨てた。

 確かにそれは由々しき事態だ。

 ユーリも思わず考え込んだ。

「うーん、アンドリューはそういう嘘をついてしまうような人なのですか?」

「いいや」

 否定は早い。

「少々気弱なところはあるが一本気で誠実な分、意思は固い方だ。だからこそ、今回の事態というわけだが」

「では、窓に鍵がかかっていたことは事実であるのですね」

「ああ」

 ――ということは、

「アレク様、ひとつ試してみてほしいんですけど」

 にっこりと、ユーリは不思議そうな顔で自分を見下ろすアレクセイとヨアンに人差し指を立ててみせた。



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