ユーリ・グレース・ノルディアの華麗なる推理[13]

「アンドリューだよ。アンドリュー・ケイマン。ちょっと気の弱いところはあるが、真面目ないい坊ちゃんさ。警邏隊に入るには少々事情があって年齢は高めだが、まだ18かそこらだったはずだ」

「ふうん?」

 聞く限り、平民と衝突するような性格でもなさそうだ。

「よくない噂とは、どのような?」

「ああ……話せば少し長くなるが」

 アレクセイは言葉を濁した。

(ほほう?)

 隠されると知りたくなるのが人の性というものだ。

 しかも、ユーリはここのところ酷く退屈している。

(これはもしやお約束のスキャンダルでは?)

 思わず彼の純白のマントを握りしめた。

「不倫か癒着か脱税か恐喝どれ⁉」

「ユ、ユーリさま……!」

 おろおろとヨアンに咎められて、ユーリはハッとした。

「あっ、おもしろがっているわけではないです!」

 目を丸くして絶句したアレクセイに言い募る。

「いや、そこではなく……」

 ごほん、と咳払いを一つ。

「どれも違うな」

 なんだ。

 いや別に本当に面白がって期待したわけではなく。

 だが、大人が子供に隠したがるような事情といえば……、

(アンドリューは事件に出くわしたと言っていたっけ?)

 それで、先ほど例に上げたような関連ではない。

 ということは、

「あ、もしかして殺人事件!」

 子供に言いたくない最たるものといえば、これだろう。

 アレクセイが小さく息を呑んだ。

 当たりだ。

「まさか、アンドリューという方は殺人犯の疑いをかけられているのですか?」

「そんな……」

 馬鹿な、という台詞を飲み込んだヨアンとユーリの視線を受けて、アレクセイは参った、と声を潜めた。

「口外は控えてくれるか」

「はい!」

 ユーリは両手で口を抑えた。

「ヨアン・ツリー、お前もだ」

「は、勿論でございます」

 ユーリは口元を覆った手をそのままに、アレクセイを上目で窺った。

「それで……どうしてそんなことに?」

「……ユーリみたいなお姫様に聞かせるような話じゃあないんだが」

 ちらり、ユーリの小さな金色の頭を見遣って、アレクセイは嘆息した。

 ま、大丈夫そうか。

 そう一人ごちて。

「始まりは、八日前の夜更けだ」

 そうして、アレクセイはアンドリュー・ケイマンが遭遇した事件を話し始めた。

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